米有力シンクタンク、対メキシコ・カナダ追加関税の実現可能性や経済への影響を解説(米国、メキシコ、カナダ)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年12月13日 11時20分
米国の首都ワシントンの有力シンクタンクが、ドナルド・トランプ次期大統領が主張するメキシコとカナダからの輸入品に対する25%の追加関税(注1)の実現可能性や、経済への影響に関する論考を相次いで発表している。
ブルッキングス研究所は12月11日に発表した論考で、追加関税を賦課するとの発表はトランプ氏の交渉上の策略にすぎないとする意見もあるとしつつも、「それを当然と考えるべきではなく、少なくとも短期的にはリスクは高い」との考えを示した。また、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の特恵税率の利用を目的に、3カ国にまたがって自動車産業が集積していることから、実際に関税が課された場合は同産業への影響が大きいと指摘し、「USMCAを利用して生産される自動車は、生産過程で平均8回は国境を超えるため、その度に関税が課されることになる」「大幅な生産コストの上昇、雇用への打撃、サプライチェーンの混乱、そして販売価格の上昇につながるだろう」と示唆した。
また、同研究所は12月3日に発表した別の論考で、実際に関税が課されるかどうかはわからないとした上で、関税が課された場合には、1期目のトランプ政権下で締結されたUSMCAに違反する可能性が高いとし、「トランプ氏との合意は当てにならないというシグナルを世界に送ることになる」「輸出管理、投資審査、産業政策などの分野で各国との連携をより困難にするだろう」と指摘した。
戦略国際問題研究所(CSIS)は12月2日に発表した論考で、現時点での実現可能性を判断するのは時期尚早だとした上で、可能性が高いシナリオとして、(1)政権発足初日に国際経済緊急権限法(IEEPA)に基づいて関税を課すと宣言しつつ、即座に適用を期限付きで留保し、その間に2カ国と交渉を行うシナリオ、(2)政権発足初日に1974年通商法301条、または1962年通商拡大法232条(注2)に基づく調査を開始し、関税を課す決定をする前に交渉を行うシナリオを示した。
ケイトー研究所は11月30日に発表した論考で、メキシコとカナダからの輸入品に対する25%の追加関税と中国からの輸入品に対する10%の追加関税が課されれば、平均的な米国世帯にとって年間1,200ドルの負担が発生するとの試算結果を紹介した。また、米国の一方的な措置に対して各国が報復関税を課す可能性が高いとし、米国の輸出事業者への悪影響も示唆した。
(注1)トランプ氏は11月25日にSNSへの投稿を通じて、政権発足後、違法薬物と不法移民の流入が止まるまで、メキシコとカナダからの輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税を課す意向を示した(2024年11月26日記事参照)。
(注2)1974年通商法301条、および1962年通商拡大法232条に基づく追加関税などの輸入制限措置の発動に際しては、米国通商代表部(USTR)や商務省の事前の調査が求められる。トランプ氏の関税政策の見通しは、2024年12月10日付地域・分析レポート参照。
(葛西泰介)
(米国、メキシコ、カナダ)
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