欧州水素戦略の達成に向けたB2Bフォーラム、協業の重要性確認(ベルギー、日本、EU)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年12月5日 0時30分
ベルギー・ブリュッセルで水素展示会「European Hydrogen Week」(11月18~21日)のB2Bフォーラム(2024年12月3日記事参照)に登壇した産業界の関係者は官庁側に長期的な戦略、投資に期待を示すとともに、民間側の連携の重要性を確認した。
ブルームバーグNEFの水素アナリストの分析によると、現時点のEUの電解槽装置規模は23ギガワット(GW、注1)と、2030年目標の半数をわずかに超える程度にとどまる。生産平均コストはキログラム当たり、スペインの5.8ユーロからフランスの12.9ユーロ(注2)と高い。このため、米国のブルーアンモニア(注3)を含め、輸入が必要となる点を強調した。同セッションには、日本からはジャパンパビリオン出展企業の2社が登壇した。
その中の千代田化工建設は、水素キャリアとして注目される常温常圧の液体の物質に変換した自社のLOHC-MCH(注4)は今後、資源国と需要国をつなぐ水素の貯蔵・輸送に有用な技術であることを強調した。2002年の研究開発から2010年にはラボでの触媒開発に成功し、2020年にはコンテナ船輸送、2022年にはタンカー輸送の実証を成功裏に終え、商業化フェーズに進んでいることを説明した。また、トヨタ自動車が持つ燃料電池技術をベースとした大規模水電解システムの共同開発と戦略的パートナーシップについても紹介し、水素社会の実装に向けて、水素バリューチェーンの構築を目指しており、国内外のパートナーとの共創を強調した。
池田修・千代田化工建設オランダ代表取締役社長がB2Bフォーラムに登壇(ジェトロ撮影)
ENEOSは、オーストラリアや東南アジア、中東から水素を輸入し、国内の製油所などの資産を活用したクリーン水素のサプライチェーン構築の取り組みを紹介した。同社の技術は再生可能エネルギーなどの電気から水とトルエンを用いてMCHを一段階の反応で製造し、今後の水素の貯蔵・運搬に適していると説明した。オーストラリアでの5メガワット(MW)の大型電解槽の開発に向けた150キロワット(kW)級の中型電解槽と250kWの太陽光発電システムを組み合わせたプラントの運転実証を紹介し、トヨタ自動車が展開するモビリティを試す「街」のかたちをした新しいテストコース「Woven City」で、水素製造とモビリティセクターなどで利活用する構想を発表した。
中川幸次郎ENEOS水素事業推進部水素サプライチェーン企画グループマネージャがB2Bフォーラムに登壇(ジェトロ撮影)
大規模な水素製造プロジェクトの展開に関する課題についてのパネルディスカッションも行われた。登壇した各社はクリーン水素製造プロジェクトに既に着手し、製品やサービスの需要は伸びており、水素を大量に製造する技術は実用化レベルまで来ているが、水素の製造コストが高いことが課題だと指摘し、課題解消にはサプライチェーン全体に政府などの投資が必要という意見で一致した。また、水素の製造から最終消費までを実現するために、現状は個々のソリューションを寄せ集めているが、これらを統合して運用することが難しいという声も上がった。
日本からは、出展企業のKBC(A Yokogawa Company)の脱炭素プラクティスリード、パトリック・コールズ氏が登壇し、次世代のエネルギー転換にはイノベーション、つまり他社とのコラボレーションがカギと言及し、とりわけ若い世代は新しい価値の創造に携わるチャンスと感じているというポジティブなメッセージで締めくくった。
(注1)当日の発表資料から。内訳:ドイツ5.4GW、スペイン4.1GW、オランダ3.8GW、デンマーク2.8GW、ポルトガル2.4GW、スウェーデン1.6GW、フランス1.5GW、その他1.6GW。GWなどで示す電解槽装置の規模は、グリーン水素の製造に必要な再生可能エネルギーの電力量でその規模感を表すことが多い。
(注2)当日の発表資料から。「欧州水素銀行」第1回競争入札結果より計算(2023年11月27日記事参照)。
(注3)天然ガスから製造されるアンモニアで、製造時に排出される二酸化炭素(CO2)を回収・貯留(CCS)や回収・利用・貯留(CCUS)などによって分離・除去したもの。
(注4)液体有機水素キャリア(LOHC)の1つのトルエンに水素を反応させメチルシクロヘキサン(MHC)に転換し、MCHの状態で水素を貯蔵・輸送
(山田美雪、薮中愛子)
(ベルギー、日本、EU)
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