USMCAの2026年見直しについて議論、米シンクタンク(米国、メキシコ、カナダ、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年6月28日 13時0分
米国のシンクタンク、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)は6月26日、「貿易は地域化しているのか」と題するウェビナーを開催した。米国では昨今、中国製の電気自動車(EV)流入に関する懸念が高まっており、ウェビナーではこの点についても議論された。これに対し、メキシコ経済省のフアン・カルロス・ベイカー元通商担当次官は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)でメキシコは必ずしも米国が持つ中国への懸念に合わせる必要はないとの見解を示した(注1)。
米国では現在、EVなど中国の過剰生産を背景とした安価な製品の流入が懸念されており、ジョー・バイデン大統領は3月、最近の自動車のほとんどは「車輪のついたスマートフォンのようなものだ」として、中国のEVを念頭に、情報通信技術を利用している自動車の安全保障上のリスクを調査して必要な対応を取るよう、商務長官に指示した(2024年3月1日記事参照)。5月には1974年通商法301条に基づくEVに対する追加関税の税率を100%にまで引き上げると発表した(2024年5月23日記事参照)。ただ、米国の懸念は、中国から米国に直接輸入される場合だけでなく、第三国、特にメキシコなど米国と自由貿易協定(FTA)を結んだ国を経由した流入にもある。そのため、USMCAの条文で定めている2026年の見直し時に、自動車の原産地規則がより厳格化されるのではないかとも指摘されている(注2)。
こうした指摘に対して、ウェビナーに登壇したベイカー氏は「メキシコに輸入された中国製品を米国へ(無税で)輸出する際、USMCAの原産地規則を満たす必要がある」として、USMCAを使って米国に輸出する製品は、メキシコで付加価値が付けられたメキシコ原産品だとする考えを示した。また、USMCAの見直しについて、米国通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表やメキシコのラケル・ブエンロストロ経済相らが「技術的な動機よりも、政治的な動機によって行われると示唆している」との見解を示しつつも、「メキシコでは、中国を切り離すという政治的要因は存在しない」「中国という課題にメキシコも対処しなければならないが、ワシントンが有する先入観を同じように持つ必要はない」との見解を述べた。
USMCAの見直しについては、カナダのメアリー・エング輸出振興・国際貿易・経済開発相も、競争力や強靭(きょうじん)性を強化するものであって、「再交渉ではない」と述べている(米国通商専門誌「インサイドUSトレード」6月14日)。また、USMCAの自動車の原産地規則は、他のFTAに比べて既に非常に厳しいことや(2019年5月8日付地域・分析レポート参照)、米国とメキシコはメキシコの遺伝子組み換えトウモロコシに対する規制など、USMCA上の紛争解決事案を抱えており(2023年8月21日記事参照)、これらを総合して見直しが行われることから、自動車の原産地規則の変更は容易ではないと指摘する専門家もいる。
それでも、安価な中国製品の流入に対する米国の懸念は強く、11月に大統領選挙を控える米国では、中国の過剰生産に対する懸念は誰が大統領になっても変わらないとする見方が多い。USMCAを前提に米国やメキシコで事業を展開している日系企業も多く、見直しを巡る議論は今後も注目される。
(注1)ウェビナーは、PIIEの非常勤シニアフェローで元欧州委員(通商担当)のセシリア・マルムストロム氏がモデレーターを務め、ベイカー氏に加え、ニュージーランドのバンゲリス・ビタリス外務貿易省副次官が参加した。
(注2)例えば、インフレ削減法(IRA)が定める要件などが(2024年5月15日記事参照)、USMCAの原産地規則として加わるのではないかなどとする議論がある。
(赤平大寿)
(米国、メキシコ、カナダ、中国)
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