トランプ米大統領、米国第一の通商政策発表、貿易赤字の原因調査など指示(米国、メキシコ、カナダ)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2025年1月22日 14時45分
米国のドナルド・トランプ大統領は就任初日の1月20日、「米国第一の通商政策」と題する大統領覚書を発表した。新たな追加関税の賦課といった具体的な措置の行使ではなく、広範な通商分野の調査を関係省庁に指示した。報告期限はほとんどが4月1日までと設定しており、それまでは追加関税などの貿易制限措置は導入されないとみられる。
覚書では冒頭、米国の産業や技術的優位性を強化し、経済と国家安全保障を守り、米国人労働者、製造業者、農場主、起業家、企業に恩恵をもたらす強固で再活性化された通商政策を打ち立てると記した。その上で「不公正かつ不均衡な貿易への対処」「中国との経済と通商関係」「経済安全保障に関する追加事項」の3つの観点から、関係省庁に調査や見直しを指示した(添付資料表参照)。
「不公正かつ不均衡な貿易への対処」では、特定の国・地域に対する調査より、不特定多数の主要な貿易相手国・地域が対象となる調査などを指示した。トランプ大統領がかねて問題視していた貿易赤字に関して、その原因や経済と安全保障への影響調査、貿易赤字を解消するためのグローバルな追加関税など対抗措置の勧告を商務長官に指示した。トランプ大統領は選挙期間中から、全ての輸入品に10~20%の関税を課すベースライン関税の導入を訴えていた(注1)。
また、財務長官に対し、就任直前に発表した外国歳入庁の設立の検討を指示した。加えて、米国の主要な貿易相手国・地域の為替政策の調査と、為替操作国・地域として指定すべき国・地域の特定を指示した(注2)。なお、財務省が年に2回報告する為替報告書で為替操作国・地域に認定されたのは、1期目のトランプ政権下の2020年12月に認定されたスイスとベトナムで(2020年12月18日記事参照)、バイデン政権下で認定された国・地域はなかった(2024年11月18日記事参照)。
通商協定については、既存の自由貿易協定(FTA)などが互恵的か否かの見直しを米国通商代表部(USTR)に指示した。トランプ政権1期目では、北米自由貿易協定(NAFTA)を再交渉して米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を発効させたほか、米韓FTAでは、米国のトラックに対する25%の関税の撤廃時期を20年延期するなどの再交渉を行った。なお、既存協定の見直しだけでなく、米国が今後締結すべき2国間または特定分野の通商協定に関する調査も指示した。バイデン政権下ではたびたび、産業団体が新たなFTAの重要性を訴えていた(2024年7月17日記事参照)。USMCAについては、2026年の見直しに向けた手続きの開始を指示した。USMCA実施法は、見直しの少なくとも270日前にUSTRが官報で公示し、パブリックコメントを募集することなどを義務付けている。
そのほか、輸入貨物の申告額が800ドル以下の場合に適用される非課税基準額(デミニミス)ルールによる影響評価も指示した。デミニミスルールの下では、原産地などの情報を申告せず、簡易的に輸入できるため、フェンタニルなどの違法合成麻薬などが輸入されているのではないかと指摘されていた(2024年9月17日記事参照)。
「中国との経済および通商関係」については、2025年1月22日記事、「経済安全保障に関する追加事項」については2025年1月22日記事を参照。
(注1)トランプ大統領が提示する関税政策については、2024年12月10日付地域・分析レポートなど、特集「トランプ新政権の米国を読む」を参照。
(注2)米国の通商政策と為替操作の関係については、2022年10月26日付地域・分析レポート参照。
(赤平大寿)
(米国、メキシコ、カナダ)
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