5月の米地区連銀報告、全体概況は上方修正も、消費・雇用中心に先行き懸念増大(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年5月31日 15時0分
米国連邦準備制度理事会(FRB)は5月29日、地区連銀経済報告(ベージュブック)を発表した。期間は4月9日から5月20日までのデータに基づくもの。
全体概況では、業界や地区によって状況が異なると指摘しつつも、「経済活動は4月初旬から5月中旬にかけて、拡大を続けた」として、全体判断は上方修正した。他方、先行きに関しては、「不確実性の高まりと下振れリスクの増大が報告される中、全体的な見通しはやや悲観的になった」とし、慎重ながらも楽観的な見方を示していた前回と比べて、ネガティブな表現ものとなった。地区別では、全12地区のうち、経済活動がわずかから控え目に増加したと回答した地区が10地区(前回10地区)、変化なしと回答した地区が2地区(前回2地区)で、いずれも前回の地区数から変化はない。
分野別では、消費について「小売り支出は、裁量的支出の減少と消費者の価格感応度の高まりを反映し、横ばいからわずかに増加」「自動車販売はほぼ横ばいで、幾つかの地区ではメーカーが販売促進のためにインセンティブを提供している」と、財消費に関して前回とほぼ同様の認識を示した。サービス消費に関しては「観光は出張やレジャーの増加に後押しされて強まった」「非金融サービスの需要は増加」とし、前月に比べて上方修正した。ただし「ホスピタリティー業界の夏の見通しはまちまちだった」とも述べており、サービス消費の先行きについては、やや不透明感が増しているもようだ。
住宅投資に関しては「建設は控え目に増加し、戸建て住宅の販売は増加したが、金利上昇が販売に影響を及ぼしているとの報告があった」とした。今回の報告の対象期間中、30年物固定ローン金利は7%で推移し(注)、全米住宅建設業者協会(NAHB)は住宅販売の下押し要因と指摘しており、こうした報告と整合的な内容となっている。また、非住宅投資に関しては「厳しい信用条件、借り入れコストの上昇により、商業用不動産の状況は軟化した」と報告しており、引き続き軟調なようだ。
物価については「控え目に上昇した」とし、全体的な基調は前月と同様だった。内容面では、建設資材や原材料についてはコスト低下がみられたとの報告があったものの、(1)ほとんどの地区では、消費者がさらなる値上げに抵抗し、投入価格が平均的に上昇したため、利益率が縮小した、(2)小売業者は顧客を引き付けるために割引を行っている、(3)多くの地区では特に保険料などのコストが上昇しているなど、全体としてインフレの影響は続いており、消費の軟化と相まって、企業に影響を与えている構造は前回から変わっておらず、先行きについても、価格の上昇は緩やかなペースで続くとの見通しを示している。
労働市場に関しては、雇用者数は8地区でわずかから控え目に増加し、4地区では変化がなく、前回とほぼ同様の認識を示した(2024年4月19日記事参照)。ただし、幾つかの地区では引き続き控え目な雇用増加を予想しているが、その他の地域では不確実な経済環境によるビジネス需要の弱まりなどにより雇用期待が後退するとして、前回よりも弱めの内容となっている。
(注)フレディ・マックが公表している4月11日~5月23日の30年物固定金利の平均は7%となっている。
(加藤翔一)
(米国)
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