EUメキシコFTAの現代化交渉が完了、最新世代の協定に(メキシコ、EU、米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2025年2月3日 0時5分
欧州委員会は1月17日、メキシコとの間の自由貿易協定(FTA)を含む総合協定(経済パートナーシップ・政策調整・協力協定)の現代化に向けた交渉が終了したと発表した。同交渉は2000年7月から発効している現協定の内容を現代化するもので、2018年4月に大枠合意し(2018年4月26日記事参照)、2020年4月に最終合意に至ったとされていた(2020年4月30日記事参照)。しかし、その後、メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領(当時)の政権下で、EU加盟国のスペインとの関係が悪化したこと(注1)も影響し、協定署名に向けた条文の精査などは進まなかった。
欧州委員会のプレスリリースによると、EUのマレシュ・シェフチョビチ通商・経済安全保障担当委員とメキシコのマルセロ・エブラル経済相の間の政治的決断を経て、同協定の交渉は完了したとし、新協定は野心的で現代的な枠組みを提供し、政治対話や協力、経済関係の深化に寄与すると強調している。さらに「現実が急速に変化する中で、地政学的な課題についてのEUとメキシコの間の戦略的な協力を容易にする。その協力の中には、サプライチェーンでのリスクを軽減し、重要な原材料の安定的な供給の保証や気候変動対策も含まれる」と説明し、世界の地政学的リスクの高まりや米国の政権交代の影響についてもほのめかす内容になっている。
EUメキシコFTAの現代化による主要な変化は次のとおり。なお、同協定にはeコマースなどサービス貿易に関するルール、腐敗防止や環境などサステナビリティへの配慮、地方政府レベルへの政府調達の解放など、最新世代の内容が盛り込まれている。
農産品分野の関税削減対象品目の拡大
労働・安全・環境・消費者保護、汚職対策の強化、eコマースなどサービス貿易の円滑化に向けた明確なルールの設定など規定内容のアップグレード
投資家保護のための投資裁判所の設置
地理的表示の保護対象の拡大
政府調達の章で地方政府の調達での内国民待遇付与
品目別原産地規則(PSR)の緩和と多国間累積の導入(注2)
環境保護、気候変動対策、責任ある企業行動、労働権の保護など持続的開発に向けた新章の導入
人権尊重、安全保障、多国間主義(マルチラテラリズム)への積極的な関与
メキシコ側の発表はなし
国際協定の交渉合意については、通常は両サイドで発表される。しかし、今回の最終合意について、メキシコ政府の発表は一切ない。メキシコがこのタイミングで最終合意を決断した背景には、1月20日のドナルド・トランプ米国大統領の就任を前に、貿易相手国・地域の多角化の必要性を再認識したことがあるだろう(「エル・エコノミスタ」紙1月19日)。メキシコは既にトランプ大統領から高関税の賦課をほのめかされており、EUとの経済関係を強化することで、米国との対話を有利に進めることを考慮したものと思われるが、他方で、トランプ大統領を過度に刺激することを恐れ、あえてメキシコ政府としての発表を控えた可能性がある。
(注1)AMLO大統領は、スペインがメキシコ植民地時代に先住民を搾取したとし、スペイン王室に謝罪を求める書簡を度々送ったことや、炭化水素資源開発や発電事業などAMLO大統領が国の役割を重視する分野で、スペイン企業が伝統的にメキシコを搾取しているという内容の発言を繰り返したことなどにより、メキシコとスペインの間の外交関係は2021年以降、急速に悪化した(2022年3月11日記事参照)。
(注2)例えば、現協定の自動車(完成車)のPSRは、工場渡し価格ベース控除方式の域内原産割合(RVC)が60%以上だが、新協定ではRVCの閾値(いきち)が55%に下がる。HS87.08項に分類される自動車部品のPSRは、現協定では4桁レベルの関税分類変更、あるいはRVCが60%以上だが、新協定では後者の閾値が50%に引き下がる。また、新協定では、HS87.03項の乗用車に用いられる幾つかの材料に関し、EUあるいはメキシコの双方がGATT24条に準拠したFTAを締結している第三国(日本など)の材料を原産材料とみなすことができる多国間累積の規定が盛り込まれている。その条件として、協定の加盟国・地域が第三国との間で材料の原産性を確認するための税関協力に関する調整がなされ、他の加盟国・地域に通知することとしている(2020年4月30日記事参照)。
(中畑貴雄)
(メキシコ、EU、米国)
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