米下院の中国特別委員長、PNTR撤回法案を提出、可決見込みは低いものの新議会での動向に注目(米国、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月18日 13時0分
米国連邦議会下院の「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会(中国特別委)」のジョン・ムーレナー委員長(共和党、ミシガン州)は11月14日、中国との恒久的正常貿易関係(PNTR)を撤回する「公正な貿易回復法」案を提出したと発表した。
中国特別委が2023年12月に発表した提言では、PNTR撤回は明記されていなかった(2023年12月15日記事参照)。だが今回、同委は「中国共産党は米国の最大の敵対勢力へと成長」し、中国にPNTRステータスを与える「賭けは失敗した」と発表した。また、トランプ政権下の2018年から賦課されバイデン政権下でも継続されている、1974年通商法301条に基づく対中追加関税によって(2024年9月17日記事参照)、「中国のPNTRステータスは事実上既に剥奪されている」とも述べた。法案の概要は次のとおり。
中国に対するPNTRの撤回。再認定のための年次の議会投票は行わない。関税率は法令に明記し、中国に対する新たな関税欄を設ける。
新たな関税欄の下、非戦略的品目に最低35%、戦略的品目に最低100%の関税を課す。
新しい関税率は1年目に10%、2年目に25%、4年目に50%、5年目に100%に引き上げる。
戦略的品目は、HSコードに基づき法案に列挙。これらはバイデン政権の「先進技術製品リスト」および「中国製造2025」の重点分野に基づく。
中国に対するデミニミスルールの適用を廃止する。
関税収入により、中国の報復措置による損害を補償する。
米国の関税体系は、PNTRのステータスを与えられた国などに対する特恵税率が適用される関税率(コラム1)と、特定国向けの関税率(コラム2)に分かれており(注1)、今回の法律が可決されれば、新たに中国用コラムが作成される。また、輸入貨物の申告額が800ドル以下の場合に、関税が賦課されず、また原産地などの情報を申告せず簡易的に輸入できるデミニミスルールが(注2)、中国からの輸入に適用されなくなる。
もっとも、バイデン政権は中国と「競い合いながらも責任を持って関係を管理」する方針を掲げており(2024年11月18日記事参照)、同法案が今議会で可決される可能性は高くない。だが2025年1月からは、大統領、上下両院ともに共和党が制する「トライフェクタ」となり(2024年11月14日記事参照)、次議会で同様の法案が提出された場合は可決される可能性がある、との指摘もある(議会専門紙「ザ・ヒル」11月14日)。共和党の政策綱領では、「中国とのPNTRの撤回」がうたわれている(注3)。なお上院では、次期国務長官に指名された、対中強硬派として知られるマルコ・ルビオ上院議員(共和党、フロリダ州)らが(2024年11月14日記事参照)、同様の法案を9月に提出している。
一方で、PNTR撤回の目的が中国に対する関税率引き上げなら301条で可能なため、新議会で共和党と民主党の議席数が僅差の中、議会承認を必要とするPNTR撤回を行う意味はあまりないとする指摘もある。ただし、今回の法案は報復措置に対する補償なども含まれており、単なる「メッセージ法案」(注4)ではないともみられる。対中強硬姿勢を鮮明にしているドナルド・トランプ次期大統領をはじめとする共和党が、中国に対するPNTRをどのように扱うのかが、新議会の焦点の1つになる。
(注1)コラム2の関税率が適用されているのは、ベラルーシ、北朝鮮、キューバ、ロシアの4カ国。
(注2)デミニミスを利用して、フェンタニルなどの違法合成麻薬などが輸入されているのではないかと懸念されており、バイデン政権は9月に、デミニミスの運用を厳しくすると発表している(2024年9月17日記事参照)。
(注3)共和党の政策綱領を基にしたトランプ氏の政策は、2024年8月9日付地域・分析レポートおよび2024年9月6日付地域・分析レポート参照。
(注4)法律として成立する可能性は低くても、政治的メッセージを広めるのに役立つ法案を指す。
(赤平大寿)
(米国、中国)
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