5月の米ISM指数、製造業で基準値下回るも非製造業は基準値以上、インフレの影響や雇用の減速傾向を示唆(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年6月7日 16時25分
米サプライマネジメント協会(ISM)は6月3日に5月の製造業景況感指数を、6月5日に5月のサービス業(非製造業)景況感指数をそれぞれ発表した。製造業で好不況の基準値の50を下回る一方、非製造業は50を上回るなど状況に違いはあるものの、インフレによる企業活動への影響や、雇用に減速傾向がうかがえるなど米国経済の緩やかな減速を示唆する内容となっている。
製造業景況感指数は、48.7と前月(49.2)より0.5ポイント下落した。ブルームバーグによる市場予想は49.8で、予想外の下落になった。
項目別にみると、生産(50.2)は基準値を引き続き上回ったものの前月(51.3)から鈍化、新規受注(45.4)は前月(49.1)から大きく下げ、この2項目が主な押し下げ要因となった。また、雇用(51.1)は8カ月ぶりに基準値の50を上回ったが、採用増と回答した企業と採用減と回答した企業の割合はおおむね同数で、数字ほどの強さがあるとは言い難い状況のようだ。
業種別にみると、拡大したと回答した業種と縮小したと回答した業種はいずれも7業種だったが、産出額の大きい6大業種(注1)のうち4業種が縮小と回答(注2)するなど、比較的規模の大きな業種が縮小に転じたことから、全体としては製造業の55%が縮小となり、指数の低下につながったもようだ。縮小と回答した業種のコメントでは、「主にインフレの影響により引き続き厳しい環境にある」(食品・飲料・たばこ)、「受注残は減少しており、新規受注は堅調とはいえない。インフレは原材料価格と金利の面で課題であり続けている」(一般機械)など、インフレの影響により消費が下押しされている現状(2024年6月4日記事参照)や、インフレ抑制に伴う高金利の継続が企業活動に影響を及ぼしていることを感じさせる声が寄せられており、こうした状況が生産、受注、雇用などの重しになっているようだ。
非製造業景況感指数は、53.8と基準値である50以上を回復し、ブルームバーグによる市場予想(51.0)を大きく上回った。
項目別にみると、ビジネス活動指数(61.2)が大幅に上昇したほか、新規受注(54.1)、入荷遅延(52.7)などが基準値である50を上回った。他方で、雇用(47.1)については前月(45.9)からやや改善したものの4カ月連続で50を下回っている。
業種別にみると、全18業種のうち13業種が拡大、5業種が縮小と回答(注3)した。5月は堅調に推移した非製造業だが、企業からは「金利の上昇により大規模な施設の更新が遅れている」(農林水産業)、「住宅ローン金利が高く、引き続き苦戦している。金利の上昇により資本コストが上昇し、賃貸用住宅プロジェクトが困難になっている。また、建設シーズンを迎えているが、木材価格が上昇し、利益が圧迫されている」(建設業)といったように、製造業と同様にインフレや高金利を懸念するコメントが聞かれる。そのほか、今後の経済情勢や政治情勢についての不確実性が高まっている、「経済の減速を感じる」(小売業)など、数字とは対照的に悲観的なコメントが多く寄せられている。
(注1)商務省の発表している2022年第4四半期(10~12月)から2023年第3四半期(7~9月)までのGDPの数値に基づき、産出額の大きい6セクターの化学、輸送機器、食品・飲料、コンピュータ・電子製品、一般機械、金属加工を指す。
(注2)拡大したと回答した業種は、印刷、石油・石炭、紙、繊維、一次金属、金属加工、化学。縮小したと回答した業種は、木材、プラスチック・ゴム、一般機械、コンピュータ・電子機器、家具、輸送機器、食品・飲料・たばこ。
(注3)拡大したと回答した業種は、不動産・レンタル・リースサービス、ヘルスケア・社会的扶助、その他サービス、教育サービス、公益サービス、卸売り、建設、運輸・倉庫、行政、経営・サポートサービス、金融・保健、情報、専門・科学・技術サービス。縮小したと回答した業種は、小売り、農林水産、芸術・娯楽・レクリエーション、宿泊・外食、鉱業。
(加藤翔一)
(米国)
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