バイデン米大統領、気候変動ウイークに際しこれまでの気候変動対策の成果について演説(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年9月27日 13時45分
米国のジョー・バイデン大統領は9月24日、気候変動ウイークに際してニューヨーク市で開催された集会で演説し、これまでの気候変動対策の成果について述べた。演説で取り上げた成果のファクトシートも発表した。主な内容は次のとおり。
(1)クリーンで手頃な価格の電力の導入、電力網の強化
インフレ削減法(IRA)とインフラ投資雇用法(IIJA)により、洋上風力発電(注1)などのクリーン電力に対する民間投資を引き出し、政権発足以来、100ギガワット(GW)を超えるクリーン電力を導入。電力網の強化・現代化も推進。
(2)気候変動に対する強靭(きょうじん)性(レジリエンス)の強化
気候変動に対するレジリエンス強化のために500億ドルを投資。老朽化した橋・道路の改修や水インフラの耐性の強化などを推進。
(3)クリーンな交通の促進
2050年までに運輸部門からの温室効果ガス(GHG)排出量を実質的にゼロにする目標を達成するべく、2024年5月に「運輸部門の脱炭素化に向けた青写真」を発表。運輸事業者向けには、IRAとIIJAにより海運や公共交通、航空などの脱炭素化に向けて数百億ドルを支援(注2)。自家用車向けには、2030年までに新車販売の50%を電気自動車(EV)にするとの目標設定や、IIJAによるEV用充電ステーションへの投資、IRAにおける税額控除〔内国歳入法(IRC)30D〕を導入して支援。このほか、公的部門向けにクリーンなスクールバスの導入や米国郵便公社の配達車両の電動化などを支援(2022年7月26日記事参照)。
(4)家庭・学校・地域におけるエネルギーコスト、環境汚染の削減
IRAでヒートポンプ導入やエネルギー効率上昇のための住宅改修に対する税額控除(IRC25C)を導入し、340万世帯がこれを活用することで、84億ドルの節約を実現。家電などに対するエネルギー効率基準も強化。
(5)クリーン経済の実現に向けた製造業の活性化
民間企業は、製造業やクリーンエネルギー関連で9,100億ドル以上の投資を発表。IRAで鉄鋼(2024年4月3日記事参照)やセメント(2024年4月1日記事参照)などの産業の脱炭素化に向けて、60億ドル以上を投資したほか、IIJAでバッテリー製造などを強化するため30億ドルを投資(2024年9月24日記事参照)するなどの支援を実施。
(6)きれいな水の供給
IIJAで水道インフラの現代化に500億ドルを投資し(2024年9月10日記事参照)、鉛製の水道管の交換やPFAS対策に係る支援、下水処理施設の建設や廃水処理システムの構築などを実施。
(7)コミュニティ支援
エネルギーコミュニティ(注3)のエネルギー転換や労働者の訓練などに数十億ドルを投資。また、若者などの訓練のため、米国気候変動隊を創設。各州などが独自の気候変動対策計画を策定できるよう支援。
(8)国際協力
2030年までにメタン排出量を30%削減、石炭火力発電所の新規建設停止、2030年までに再生可能エネルギー容量を3倍、2050年までに原子力エネルギー容量を3倍にするといった多国間コミットメントを主導(2023年12月15日記事参照)。
バイデン大統領はこれら成果を強調しつつ、共和党が歳出法案や議会審査法などを活用して気候変動対策を骨抜きにしようとしていると批判し、それらが実現すれば上記のような税額控除や補助プログラムなどが縮小・撤廃される可能性があると述べた。
(注1)バイデン政権は2030年までに洋上風力発電を30GWまで増加させる目標を掲げている。これまでに10プロジェクト、15GW分を認可している。
(注2)海運部門では、クリーンポートプログラムとして、IRAで30億ドルを投資し、港湾施設の脱炭素化を支援するとしている。鉄道部門では、IIJAで660億ドルを投資し、旅客鉄道の現代化を図るとしている。航空部門では、IRAにおいて持続可能な航空燃料(SAF)の生産・販売に対する税額控除(IRC45Z)で支援している。
(注3)かつて化石燃料の生産を行っていた地域。炭鉱の閉鎖やエネルギー転換の影響により経済的に困窮している地域もあり、IRAの税額控除でもエネルギーコミュニティ加算(2024年3月26日記事参照)が設けられるなど、支援策が講じられている。
(加藤翔一)
(米国)
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