米シンクタンク、トランプ氏主張の関税政策の法的根拠を解説(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年10月15日 11時50分
米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は10月10日、ドナルド・トランプ前大統領が連邦議会の承認なしに大統領権限で実行可能だと主張する、全貿易相手国からの輸入品に対する一律10~20%の関税賦課や、中国からの輸入品に対する60%の追加関税賦課などの法的根拠に関する解説文を発表した。
合衆国憲法(第1条第8節第1項)は、租税、関税、輸入税、消費税を賦課して徴収する権限は連邦議会が有すると規定している。ただし、議会は1930年代以降に個別の法律制定を通じて、特定の法定条件を満たした場合に、政権が関税を賦課できるよう、その権限を委譲してきた。
CSISは、議会から政権に権限を委譲した法律のうち、1962年通商拡大法232条、1974年通商法301条、国際緊急経済権限法(IEEPA)、1974年通商法122条、1930年関税法338条の5つの法律(注)を挙げ、トランプ氏が主張する輸入関税について「実務的にも法律的にも実行に向けてほぼ障害はないと思われる」と結論付けた。一方で、「トランプ氏は目を引く挑発的なアイデアを好んで打ち出すが、強い反発があると断念・修正することもあり、意思決定プロセスは極めて柔軟だ」「トランプ氏は交渉の駆け引きや関心を集めるために関税を含む攻撃的な脅し文句を使う『ディールメーカー(仕掛人)』であり、関税の脅しが現実のものとなるかどうかはわからない」とも付け加えた。
別のシンクタンクのケイトー研究所も10月9日、トランプ氏の主張の法的根拠に関する報告書を発表した。同研究所もCSISの解説文と同じ5つの法律を挙げ、「一部の専門家は、トランプ氏が議会の同意なしに関税を幅広く賦課することはできないと指摘しているが、ほぼ見当違いだ」とした。さらに、大統領が議会から委譲された権限を乱用した場合に、立法府の議会、司法府の裁判所は阻止できないリスクがあると指摘した。具体的には、議会ではこれまでも関税の賦課などに先立って議会の承認を義務付けるよう求める法案が提出されてきたとしつつ、仮に上下両院で法案が可決されたとしても、大統領が拒否権を行使することが想定され、さらに、近年の議会構成では、拒否権を覆すために必要な3分の2の賛成票を確保することはほぼ不可能だとした。また、これまでも米国の事業者が政権の措置に異議を申し立てた事例があったとしつつ、裁判所は国家安全保障などを理由とした措置は司法審査の枠外として、全ての判例で政権側に立ってきたと問題視した。
なお、トランプ前大統領は通商分野で、中国からの輸入品に恒久的に最恵国待遇を保証する制度〔恒久的正常貿易関係(PNTR)〕の撤回や、貿易相手国が米国からの輸入品に対して賦課する関税率と同じ水準まで米国も相手国からの輸入品の関税率を引き上げられるとする法律(トランプ互恵通商法)の成立なども主張している。ただし、これらの実行に向けては、いずれも議会の承認が必要になるとみられている(2024年8月9日付地域・分析レポート参照)。
(注)各法律の概要や発動動向については、2024年4月4日付地域・分析レポート参照。
(葛西泰介)
(米国)
外部リンク
- モザンビーク総選挙、現政権優勢との見方も(モザンビーク)
- 激戦州でハリス氏とトランプ氏の支持率の差縮まる、米大統領選挙世論調査(米国)
- バイデン米政権、半導体関連の米ウルフスピードにCHIPSプラス法で7.5億ドルの助成発表(米国)
- 米USTR、対中301条関税の適用除外申請の受け付け開始、製造機械が対象(中国、米国)
- GITEX Expand North Star 2024開幕、ジャパンパビリオンに22社出展(日本、アラブ首長国連邦)
- 米税関、マレーシア企業の使い捨て用手袋の輸入差し止めを撤回、人権状況是正受け(マレーシア、米国)
- 使い捨てプラ製品全廃に向けた規制、第1段階の適応期間が終了へ(香港)
- 世界銀行「ビジネス環境」報告書、ルワンダが「業務効率」で50カ国中3位(世界、モーリシャス、ルワンダ、レソト、ボツワナ、コートジボワール、タンザニア、モロッコ、ガーナ)
- 国際投資サミット開催、産業戦略策定に向けた政策文書も公表(英国)
- メルセデス・ベンツ、カナダ・オンタリオ州政府と連携、モビリティー分野のインキュベーション施設を3拠点設立(カナダ、ドイツ)
この記事に関連するニュース
-
米大統領候補のハリス氏とトランプ氏、相次いでインタビューに対応、投票日まで3週間弱(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年10月18日 13時0分
-
アングル:米大統領選、トランプ氏の敗北受け入れ拒否で混乱も
ロイター / 2024年10月17日 17時28分
-
米トランプ氏、USMCA見直しで、中国によるメキシコ経由の自動車部品の無税での輸出を制限と表明(米国、メキシコ、カナダ、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年10月15日 13時0分
-
米大統領選、トランプの「経済政策」に潜む重大懸念 世界的に格差拡大? 関税引き上げの驚くインパクト
東洋経済オンライン / 2024年10月8日 9時0分
-
米USTR、重要鉱物など5品目の対中追加関税の対象拡大・関税率引き上げ案を発表、パブコメ募集(米国、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年9月24日 14時0分
ランキング
-
1「ガザはこの世の地獄」毎日子ども40人殺害 国連
AFPBB News / 2024年10月19日 17時2分
-
2ネタニヤフ氏私邸狙いドローン=ヒズボラ発射か―イスラエル
時事通信 / 2024年10月19日 20時51分
-
3トランプ氏、連邦議会占拠事件の受刑者「不当な拘束」…第2次大戦中の日系人と同列に扱う
読売新聞 / 2024年10月19日 15時31分
-
4中国海警局、日本漁船を「追放」 尖閣諸島周辺の「領海に不法侵入」で
AFPBB News / 2024年10月17日 20時45分
-
5ロシアに派遣された「北朝鮮兵」の動画、ウクライナ当局が公開「露は捨て駒として使うつもりだ」
読売新聞 / 2024年10月19日 20時48分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください