政権交代後初の国王演説、経済成長を最優先事項に据える(英国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月18日 11時30分
7月17日に新会期に入った英国議会の開会式で、国王チャールズ3世が政府施政方針について演説(詳細は英国政府ウェブサイト参照)を行った。
同月4日の総選挙で政権交代を果たした労働党政権は、経済成長を最優先課題と位置付けた。企業と労働者の双方と新たなパートナーシップを構築、全ての地域社会の経済的繁栄を優先することで、国民が直面する生活費高騰からの脱却に取り組む。同時に、予算責任法案により、あらゆる政策決定は財政ルールにのっとって行われ、重要な税制や歳出の変更は全て予算責任局(OBR)による独立した評価の対象とする。
演説で触れられた法案は29(注1)あり、主なものは次のとおり。
計画・インフラ法案:住宅や重要インフラ建設の計画制度を改革、計画プロセスの迅速化・合理化を図る。全国的に住宅やインフラの供給を拡大し、持続的な経済成長を支える。
旅客鉄道サービス(国有化)法案・鉄道法案:鉄道会社の再国有化により、乗客の利便性を高め、成長を促進。公的機関「グレート・ブリティッシュ・レールウェイズ(GBR)」を設立、ネットワーク管理と旅客サービスを統合する。
雇用法案:搾取的な労働慣行を禁止、被雇用者の権利を強化する。ゼロ時間契約(注2)や、契約内容の変更を目的とした解雇・再雇用(fire and rehire)の禁止、育児休暇、疾病手当、不当解雇からの保護の勤務開始日からの適用など。
グレート・ブリティッシュ・エナジー法案:クリーンエネルギー会社「グレート・ブリティッシュ・エナジー(GBE)」を設立。民間企業と共同でプロジェクトの開発・所有・運営を行う。エネルギー主権の回復、エネルギー自給率の向上、雇用の創出、家計負担の軽減、気候変動の取り組みを実現する。
その他、中央政府からイングランド内の地方自治体に権限移譲する法案、持続可能な航空燃料(SAF)生産への投資促進のための収益支援メカニズム法案などを紹介した。国営医療サービス(NHS)の待機時間削減や国境警備の強化、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの各自治政府との連携強化などにも触れた。さらに、NATOへのコミットメントや核抑止を含む軍備の維持、中東地域の長期的な平和・安全の確保、ウクライナの支援や同国のNATO加盟へ主導的な役割を果たすことも表明した。EUとの関係については、貿易・投資分野の関係改善に努め、共通の脅威に対する協力関係強化を目的に、新たな安全保障協定の締結を目指すとした。
(注1)新会期に入り、議会に提出された法案は40。
(注2)雇用主が必要とする時間だけ就労し、報酬は就労時間に対してのみ支払われ、週当たりの労働時間が明記されない雇用形態。
(奈良陽一)
(英国)
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