2024年の世界貿易量予測は2.6%増、主要航路の混乱など不確実性の高まりに警鐘(世界)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年4月12日 16時0分
WTOは4月10日、世界貿易見通しを発表し、2024年の世界の財貿易量(輸出入平均)は前年比2.6%増の予測となった(添付資料表参照)。インフレ圧力の緩和に伴い、主に先進国での実質家計所得が改善し、今後2年間で貿易は徐々に回復する見込み。ただし、2024年の増加予測には、商品価格の高騰が貿易の伸びを下押しした前年からの反動増が反映されたものの、前回の2023年10月時点の予測(3.3%増)から0.7ポイントの下方修正となった。WTOは2024年の予測を、楽観なシナリオでは5.8%増、悲観的なシナリオでは1.6%減とし、メインシナリオ(2.6%増)に対して下振れが強い。地域紛争、地政学的緊張、保護主義の台頭など世界経済を取り巻く多数のリスク要因を背景に、予測には高い不確実性が伴うと強調した。
2024年の輸出量の伸び(予測値)を地域別にみると、アフリカとCIS地域がそれぞれ5.3%増と高い。北米(3.6%増)、中東(3.5%増)、アジア(3.4%増)はそれぞれ3%台中盤の緩やかな伸びとなる一方で、欧州は1.7%増と、他地域と比べて低い伸び率にとどまる予測。
WTOは2023年の世界貿易量も発表した。エネルギー価格の高騰と長引くインフレを背景に、前年比1.2%減となった。2020年(5.0%減)以来3年ぶりのマイナス成長となり、前回予測(0.8%増)を下回った。金額ベースでみると、同年の世界の商品貿易(輸出入平均)は、石油・ガスなどの商品価格の下落が響き、5%減(24兆100億ドル)となり、数量ベースよりも減少幅が大きかった。財貿易が減少する半面、2023年の世界の商業サービス貿易額は、海外旅行の回復やデジタル配信サービスの増加により、9%増(7兆5,400億ドル)と好調だった。なお、同貿易額は新型コロナ禍前の2019年比で21%増と順調に増加を続けている。
WTOは今後の見通しについて、地政学的な緊張や政策の不確実性による下振れリスクに警鐘を鳴らす。具体的には、地政学的な要因による食料やエネルギー価格の再高騰、海上輸送の要であるスエズ運河やパナマ運河の情勢、保護主義の台頭などを指摘する。海上輸送については、中東紛争に起因するスエズ運河の寸断や淡水不足によるパナマ運河の通航制限が発生しているが、経済的な影響は限定的だ。しかし、世界貿易量の約12%、またアジア~欧州間のコンテナ輸送の3分の1が通行するスエズ運河の寸断により、紅海を避け喜望峰へ迂回する航路が選択されており、アジア~欧州間の輸送では約10日間の遅れや運賃の高騰が発生している。主要な航路の障害は、今後の貿易コストの上昇が懸念される。WTOのラルフ・オッサ主任エコノミストは、一部の政府による保護主義的な動きや主要な航路の混乱などを受け、「貿易の回復力が試されている。持続的な混乱、地政学的緊張、政策の不確実性の下で、貿易見通しのリスクは下向きに傾いている」と指摘する。
(田中麻理)
(世界)
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