司法改革に関する政令公示、危ぶまれる三権分立(メキシコ)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年9月26日 0時50分
メキシコ政府は9月15日、連邦官報で「司法改革に関するメキシコ憲法の改正・追加・廃止する政令」を公布した。同司法改革は同月11日に議会で可決されていたもの(2024年9月26日記事参照)。今回の司法改革の特徴としては、11人から9人に削減された最高裁判所判事の国民投票に加えて、高等管区裁判所、初等地区裁判所、新たに創設される司法規律裁判所などを含む1600以上の裁判官を国民投票で公選することになる。特に最高裁判所判事の選定では、行政府と立法府、司法府からそれぞれ3人以内の候補者が指名され、その後国民投票の結果を受けて、9人選出されることになる。さらに、最高裁判所の過半数は9人の判事に対して6票必要となっており、最高裁判所の採決の際に、現在与党が力を持つ行政府と立法府から選出される6人の影響力が強く作用するため、この点で三権分立が保たれない可能性が示唆されている。
また、新たに創設される司法規律裁判所は、司法の客観性や公平性などの原則に反する行為や不作為に対して、裁判官を制裁する機能を有している。そのため、行政府と立法府の法案に反対する裁定をしないための圧力として機能する可能性がある(「エル・フィナンシエロ」紙9月18日)。
さらに、この改革では、税務問題に関する判決の早期化や、アンパロ訴訟(注)に関する一般効力の無効化に関しても言及しており、特にアンパロ訴訟では、提訴した国民や企業のみに効力が及ぶことになり、経済界にも影響が出る可能性がある(主な改正内容は添付資料参照)。
野党や最高裁判所で違憲訴訟の動きも
野党の国民行動党(PAN)や制度的革命党(PRI)の議員が司法改革での同憲法改正に対して、違憲訴訟の準備をしていることに言及した。PANのリカルド・アナヤ・コルテス上院議員は「PANは数日中に訴訟について、正式な発表をする予定」と述べた(「エル・エコノミスタ」紙9月18日)。
また、ノルマ・ピニャ最高裁判所長官は9月18日、「裁判官や判事が司法改革に異議を唱えることができるかを明らかにするための協議を開始した」とし(「レフォルマ」紙9月18日)、司法改革に対する異議申し立て方法を模索していることを示唆しており、司法改革に反対する動きにも注目が集まっている。
(注)行政府や立法府、司法府などの行為により、憲法が保障する国民や企業の基本的権利が侵害された場合、当該行為の差し止めと無効を求める裁判制度。
(阿部眞弘)
(メキシコ)
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