米USTR、サプライチェーン強靭化に向けた政策文書発表(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2025年1月9日 10時20分
米国通商代表部(USTR)は1月7日、「サプライチェーン強靭(きょうじん)化に向けた通商政策の適応:今日のグローバル経済の課題への対応」と題する政策文書を発表した。USTRは2024年3月、サプライチェーンを強靭化する貿易・投資政策の策定のために、パブリックコメントを募集すると発表していた(2024年6月7日記事参照)。
政策文書では、冒頭に半導体や医薬品を例にして、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う混乱によって「サプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性がもたらす恐ろしく破壊的な影響が明らかになった」と記載した。生産拠点の地理的な集中といった脆弱性は、短期的なコスト効率や利益最大化などを希求する通商政策などによってもたらされたとし、バイデン政権はこれらを解決するため、これまでとは異なる新しい通商政策を実行してきたとした(注1)。その上で、次の6分野で方針を示した。
グローバル貿易パラダイムの再構築
強靭な繊維・アパレルサプライチェーンの維持
強靭化に向けた原産地規則の利用
サプライチェーン強靭化に向けた非市場的政策や慣行(NMPPs)への対抗
サプライチェーン強靭化を促進するデータ、分析ツールの改善
分野別通商協定を通じたサプライチェーンの強靭化
これらのうち原産地規則については、域内に生産拠点を置くための「有意義なインセンティブ」を創出しなければならないと指摘した(注2)。NMPPsへの対抗では、米国による重要分野への投資促進やそれら投資を保護する関税などの米国による措置と、同盟国などと連携した関税や基準の策定などを組み合わせて実行しなければならないとした。また、1974年通商法301条は「NMPPsがまん延している分野について調査し、措置を講じる手段として利用できる」とした上で、対抗措置の範囲は同法に列挙された貿易制限措置に「とどまらない可能性がある」とも記載した(注3)。
今回の政策文書は総じて、これまでのバイデン政権の通商政策に対する方針がまとめられている。米国通商専門誌「インサイドUSトレード」(1月7日)は、6つの分野はそれぞれ異なっているものの、「関税自由化、ジャストインタイム方式のサプライチェーン、企業利益を優先し、奨励する通商政策に反対する論調をまとめている」と指摘している。
なお、政策文書で有効性を強調した301条などに基づく追加関税措置は、第1期トランプ政権が開始し、バイデン政権下でも継続されたが、WTOの紛争解決パネルで協定違反との裁定が出ている。ドナルド・トランプ次期大統領が提唱する新たな関税政策も、WTO協定に抵触する可能性が高い(注4)。これら部分に関しては、WTOを中心とする国際通商システムに対する米国の姿勢が問われる内容といえそうだ。
(注1)バイデン政権の通商協定に対する考え方は、2024年2月9日付地域・分析レポート参照。
(注2)2026年に見直しを迎える米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)では、完成車の自動車の原産地規則の厳格化が議論の焦点の1つになると指摘されている(2024年10月10日記事、2024年12月12日付地域・分析レポート参照)。政策文書では、最恵国(MFN)税率が低いほど、サプライチェーンを変更するほどのインセンティブを生み出すことは難しいとも指摘している。
(注3)バイデン政権が2024年12月に発表した「2021~2024年サプライチェーンレビュー」報告書でも、同様の趣旨の記載がある(2024年12月20日記事参照)。
(注4)トランプ氏の関税政策とWTOとの関係については、2024年8月9日付地域・分析レポート、2024年12月10日付地域・分析レポート参照。
(赤平大寿)
(米国)
外部リンク
- 米先端技術見本市CES2025、商用車の自動化や中国メーカーの動向に注目(米国)
- 中国、信頼できないエンティティー・リストに米10社を追加、台湾への武器売却を理由に(台湾、中国、米国)
- 米東海岸の港湾労使交渉で暫定合意発表、労働者側が批准投票へ(米国)
- 米USTR、2024年の模造品・海賊版に関わる悪質市場の調査結果を発表(中国、ベトナム、米国)
- TikTok禁止令を4割強が支持、米世論調査(米国)
- バイデン米政権、インドとの戦略的技術パートナーシップ強化に関するファクトシート発表(インド、米国)
- 米商務省、CHIPSプラス法に基づくセミコンダクター・リサーチ・コーポレーションへの助成確定(米国)
- 米USTR、中小零細企業に対する貿易と通商政策の影響調査を要請(米国)
- 米商務省、2024年の輸出管理規則に基づく執行実績を発表(中国、米国、ロシア、イラン)
- 米先端技術見本市「CES2025」、AIが最大のテーマ、社会実装に向けた発表相次ぐ(米国)
この記事に関連するニュース
-
米調査会社、2025年10大リスク発表、日本のリスクは関税と米・メキシコ関係悪化(米国、日本、メキシコ)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2025年1月8日 11時30分
-
米バイデン政権、中国製「レガシー半導体」の新たな調査開始、トランプ政権に引き継ぎ
Record China / 2024年12月28日 11時0分
-
米USTR、中国の半導体産業に関する301条調査開始、レガシー半導体や基板に焦点(米国、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年12月24日 13時25分
-
USMCAパネルが米国の主張認める、メキシコの遺伝子組み換えトウモロコシ規制で(米国、メキシコ)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年12月24日 13時15分
-
バイデン米政権「2021~2024年サプライチェーンレビュー」報告書を発表、通商法の更新を提案(米国、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年12月20日 14時0分
ランキング
-
1「大企業以外ならフリーターでいい」…韓国の若者が選ぶ“新しい働き方”
KOREA WAVE / 2025年1月13日 17時0分
-
2北朝鮮、兵士に自決強要=ロシア派兵で300人死亡―韓国情報機関
時事通信 / 2025年1月13日 16時24分
-
3カナダ首相、トランプ氏の25%関税表明に「関税で対抗」…オレンジジュースやトイレ製品など検討
読売新聞 / 2025年1月13日 19時49分
-
4“特殊詐欺拠点”に日本人6人が監禁か ミャンマーの中国系犯罪集団
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年1月13日 12時4分
-
5チベットの地震死者数に疑義 亡命政府、中国は反発
共同通信 / 2025年1月13日 19時10分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください