NSW州の水素ハブの港湾都市、ニューカッスルの現状(オーストラリア)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年6月4日 0時45分
オーストラリア・シドニーから北に約170キロメートルに位置し、ニューサウスウェールズ(NSW)州のハンター・バレー地域(以下、ハンター地域)にある港湾都市ニューカッスルは、中国や日本などアジア向けに石炭を輸出する主要な港だ。連邦政府およびNSW州(2021年10月14日記事参照)はハンター地域を水素ハブに選定し、2030年までにグリーン水素の産業基盤の構築を促進、将来的にニューカッスル港からの水素輸出も目指す。民間企業による水素プロジェクトも計画されている(添付資料表参照)。ジェトロは2024年5月21日に、現地大学、港湾会社の担当者から脱炭素や水素に関する取り組みについて聞いた。概要を紹介する。
ニューカッスルエネルギー資源研究所(NIER)(ジェトロ撮影)
ニューカッスル大学(UON)には、資源(重要鉱物など)、エネルギー(水素、アンモニアを含む)、食料、水の4分野での産業課題を解決するため、産学共同研究を行うニューカッスルエネルギー資源研究所(NIER)がある。NIERは、リサイクルやクリーンエネルギー分野での研究開発や商業化の加速を支援するイニシアチブ「TRaCE」(注1)に力を入れているという。同イニシアチブにおける国際連携の一例として、ドイツのアーヘン工科大学(RWTH)と共同で、グリーン鉄鋼の生産に必要な製錬技術の研究開発を行っている。具体的には、国産鉄鉱石を用い直接還元鉄(DRI)と電気製錬炉(ESF)を組み合わせ、高炉を使った方法と比較し二酸化炭素(CO2)の排出を抑えた製鉄プロセスの実現を目指す、とのことだった。
クリーンエネルギー地区について説明するニューカッスル港湾会社(ジェトロ撮影)
港湾インフラ整備や管理を行うニューカッスル港湾会社は2023年7月に、連邦政府から1億オーストラリア・ドル(約104億円、豪ドル、1豪ドル=約104円)の支援を受けて、管轄地区にグリーン水素やグリーンアンモニアなどの生産、貯蔵、輸出の主要拠点となるクリーンエネルギー専用の地区(220ヘクタール)を整備する予定としている。これまで15社とクリーンエネルギー地区開発に関する覚書(MOU)を締結している、との紹介があった(注2)。同地区の脱炭素化に欠かせない再生可能エネルギー由来の電力は、NSW州内の再生可能エネルギーゾーン(REZ)(注3)や洋上風力発電などから調達するという。
ニューカッスルでの水素プロジェクトに参画する上でのメリットとして、(1)既存の大規模な港湾や輸送インフラを活用可能なこと、(2)NIERのようなエネルギーの研究拠点があること、(3)周辺に水素のオフテイカー(引き取り手)となるアンモニア製造の重工業のサプライチェーンが存在すること、などが関係者から挙げられた。水素の地産地消と輸出拠点の両方を兼ね備えた水素ハブとして今後期待される。
(注1)TRaCE(Trailblazer for Recycling and Clean Energy)イニシアチブは、連邦政府、ニューサウスウェールズ大学と共同で、リサイクルとクリーンエネルギーの分野を対象として実施。
(注2)15社のうち、日本企業は3社。三菱重工業(水素・アンモニアなどのエネルギー関連設備の最適構成の検討協力)、商船三井(グリーン水素・グリーンアンモニアの海上輸送協業)、ユーラスエナジーが、それぞれ港湾会社とMOUを締結した。
(注3)太陽光、風力などが豊富な適地を再生可能エネルギーゾーン(Renewable Energy Zone:REZ)として区域化し、再生可能エネルギー発電および蓄電を大規模に行う場所。区域の指定・開発はNSW州政府が行う。
(青島春枝)
(オーストラリア)
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