米企業による対中サプライチェーン多様化は「限定的だが重要な程度で進行」、米調査会社の報告書(米国、中国、メキシコ、ベトナム、インド)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年8月9日 11時15分
米国の民間調査会社ロディウムグループは8月7日、「中国に関する多様化フレームワーク」と題する報告書を発表した。米国の主要企業の経営者で構成するビジネスラウンドテーブルからの委託を受け、6月に作成した。報告書では、米国企業による中国から生産拠点や調達元を他国に移管するサプライチェーンの多様化(注1)は「限定的だが、重要な程度で起こっている」と結論づけた。
報告書では、米中貿易戦争、新型コロナウイルス、ロシアによるウクライナ侵略などの衝撃は、「過度にグローバル化したバリューチェーンのリスクを明確にした」ものの、中国の市場規模の大きさや地政学的影響力が多様化を阻む大きな障害となっているとした。その上で、次の点を調査結果として挙げた。
過去7年間、米国の輸入と直接投資に占める中国の割合が減少していることから、全体としては中国からの多様化が進んでいる。
多様化はこれまでのところ、メキシコやベトナムなど数カ国に集中している。生産能力の制約やコスト上昇といったリスクにより多様化は遅れている。
多様化は繊維、エレクトロニクス、自動車など一部の産業に集中しており、川上のサプライチェーンよりも最終組み立てに集中している。移転した企業はまだ中国での部品製造や中間財の調達に頼っており、広範な移転はより長い期間をかけて段階的にしか起こらない。
米国と価値を共有する国・地域は、先進国・地域であっても多様化の勝者となり得る。カナダ、台湾、ドイツ、韓国は米国の輸入と直接投資におけるシェアを拡大している。一方で、米国の同盟国である日本、オーストラリア、フィリピンの同シェアは限定的にしか拡大していない。
多様化に特に寄与している要因は、基礎から先進技術までを有する労働力の確保と、質の高い通商協定だ。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)は、メキシコが中国からの移転先となるカギであり、ASEANと中国の自由貿易協定(FTA)は、特にベトナムが米国の貿易パートナーとして台頭する上で中心的な役割を担っている。
日本などが主要な移転先になっていない点については、安全保障上のつながりは、貿易開放性、技術へのアクセス、既存投資の活用ほど重視されていないと分析している。また、米国の輸入先シフトの一部は、米国以外の企業、特に中国や台湾の企業によってもたらされており、日本などの同盟国ではないとも述べている。
通商協定については、ベトナムが地域的な包括的経済連携(RCEP)協定などを通じて中国から低コストで輸入できているとする一方で、インドに対しては、情報技術協定(ITA、注2)、政府調達協定(GPA)、RCEPや環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)などの欠如が、移転先としての魅力に劣る要因と指摘している。そのほか、労働者の技術の向上が、今後数年間、多くの国にとって中国からの多様化を実現するカギとなるとしている。
なお報告書は最後に、生産拠点の建設、調達先の選定などサプライチェーンの移転に加え、新たなインセンティブの獲得、移転先の国内規制の改善の必要性などにより、中国からの多様化にはまだ時間がかかるとしている(注3)。
(注1)報告書では、「多様化(diversification)」「デリスキング(de-risking)」「デカップリング(decoupling)」といった単語が統一的な定義なく利用されていることから、これらのうち「多様化」を採用した上で、「商業活動(貿易、投資、研究開発、雇用など)を中国から他の経済圏に移行させ、商業的または政治的な過度な依存を軽減すること」と定義している。
(注2)IT製品の関税撤廃などを定める複数(プルリ)のWTO加盟国による協定。1997年に発効し、2015年末に対象品目が拡大した(ジェトロの2016年5月17日付調査レポート参照)。
(注3)米中対立に伴う対米サプライチェーンの変化については、2023年10月16日付地域・分析レポート参照。
(赤平大寿)
(米国、中国、メキシコ、ベトナム、インド)
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