米エネルギー省、産業部門の環境対応・競争力強化へロードマップ発表(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月20日 13時25分
米国エネルギー省(DOE)は11月18日、産業部門の温室効果ガス(GHG)排出量削減と良質な雇用創出実現に向けたロードマップとなる「クリーンで競争力のある産業セクターのためのブループリント」を発表した。
バイデン政権では、2050年までの脱炭素化に向け、セクター別に戦略を策定している。基盤となる電力部門では、2035年までの脱炭素化を掲げ、太陽光・風力などの導入に向けたロードマップも策定している。運輸部門では2023年1月に、住宅・商業部門では2024年4月にそれぞれブループリントが策定された。一方、これらの部門と並んでGHG排出量の多い産業部門に関しては、プロセスと製品の多様性、セクター全体に導⼊できる単一の解決策を⾒つけることの困難さや、排出量が多い業種での技術的な解決策の欠如など複数の課題のため遅れていたが、技術的な進歩を踏まえて策定にこぎつけた。
ブループリントは次の5つの戦略軸を設定している。
(1)既存の低炭素技術の導入促進:熱利用のためのヒートポンプ導入や、非熱ユニットの電化、より低炭素な原材料への代替など既存の低炭素化技術の導入を促進する。これにより、2030年までに10~15%のGHG排出量削減が見込まれ、電力・運輸部門の脱炭素化が進めば、さらに25%排出量の削減を上乗せできると見込む。
(2)革新技術の実証支援:CCUS(注1)や高温熱電化技術、クリーン水素の利用など、新技術の商業化に向けた実証実験を推進。
(3)データ活用の高度化:排出量の測定・報告を適切に実施することで低炭素市場へのアクセスを改善するとともに、センサーネットワークを活用した監視・最適化、人工知能(AI)を使った生産効率の向上などを推進。
(4)次世代製造技術の開発に向けた研究体制の革新:コンソーシアムの設置や官民連携などによる技術・知見の共有促進などを通じ、イノベーションを促進。
(5)製品全体での環境配慮:サプライチェーン全体でのGHG排出量に関するデータ共有、循環利用の促進、地理的特性に応じた産学官の広域ネットワークである産業クラスターの育成などを通じ、GHG排出や廃棄物を削減。
ブループリントでは、こうした取り組みを支援するため、供給側と需要側への支援の在り方にも言及している(注2)。供給側に対しては、(1)既存技術の導入を支援するための税制優遇、助成金、融資の拡大、(2)研究開発への連邦投資の拡大、(3)技術共有のためのパートナーシップの促進、(4)手頃な価格のクリーンな電⼒の確保など。需要側に対しては、(1)公共調達での低炭素製品の積極的調達、(2)低炭素製品の導入義務付けやインセンティブの付与、(3)革新的技術に対する需要確保のため、生み出されるサービス購入を定めたオフテイク契約の推進など。併せて、規制枠組みの在り方や電力網など共通インフラの整備、国際協力の推進などにも言及している。
これに加え、需要側では、環境保護庁(EPA)による低炭素建材(LEC)のラベリングプログラムの整備(注3)、政府調達局(GSA)による低炭素建材の建設計画への組み込み(注4)などが行われている。
(注1)Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage。分離・貯留した二酸化炭素(CO2)を利用するもの。例えば、米国ではCO2を古い油田に注入することで、油田に残った原油を圧力で押し出しつつ、CO2を地中に貯留するというCCUSが行われており、全体でCO2削減が実現できるほか、石油の増産にもつながるビジネスとなっている。
(注2)なお、供給側、需要側ともに、既存の施策でも一部カバーされているものがある。供給側では、インフレ削減法(IRA)とインフラ投資雇用法(IIJA)に基づく産業実証プログラムによる支援(2024年3月29日記事参照)や産業排出削減技術開発プログラムなど。
(注3)建材のGHG排出量制限を設定し、環境負荷の低い製品の使用を促進する。
(注4)これにより年間約4万トンの二酸化炭素(CO2)排出削減を見込む。
(加藤翔一、藤田ゆり)
(米国)
外部リンク
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