米USTR、バイデン政権の通商協定のモデルとなる協定文書を発表(米国、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2025年1月20日 10時30分
米国通商代表部(USTR)は1月13日、バイデン政権が掲げる「より強靭(きょうじん)な世界貿易システムの構築」を推進するためのモデルとなる協定文書を発表した。政権終了間際に、これまで取ってきたバイデン政権の通商政策の方針を、協定文書のモデルというかたちで残した。
USTRのキャサリン・タイ代表は発表で、「トリクルダウン(注1)貿易は不平等を悪化させ、地球環境にも悪影響を及ぼし、地政学上のライバルに過度に依存する結果を招いた」「これらのモデルとなる協定文書は、国内外で直面している課題により適切に対応できるグローバル化の根幹を構築するための取り組みの一環だ」と、協定文書作成の意図を説明した。
また、協定文書と併せて発表されたカバーノートでは、マスクなどの不足を例に、「新型コロナウイルスのパンデミックは、グローバルな貿易システムの構造的な欠陥を露呈した」「生産と調達の決定を行うにあたり、民間部門が集中リスク、すなわち地政学的リスクを十分に考慮していなかったことが明らかになった」とし、最適な調達先を市場に委ねたことが投資誘致のための低コスト構造を生み出し底辺の競争につながった、とこれまでのグローバリゼーションを非難した。その上で、バイデン政権はこうした課題に対処するため、労働者階級に直接的な利益をもたらす政策を採用してきたと記し、それを実行するための具体的な手段として、競争政策、包摂的経済、非市場的政策や慣行(NMPPs)、公共企業、基準の分野でモデルとなる協定文書を公開した。これらは、2国間、複数国間、多国間の通商協定に活用できるという。
これらモデルテキストについて、米国通商専門誌「インサイドUSトレード」(1月14日)は、NMPPsではカバーノートで中国を明記して批判していること、公共企業では中国と明記はしていないものの、かねて米国が批判している国営企業について規定していること、基準では貿易を支配しようとする反競争的政策や慣行への対処などがうたわれていることから、「明示的または暗示的に中国に対抗することを目的としている」と評した。
今回のUSTRの発表は、これまでの一連のバイデン政権による通商交渉のスタンスをあらためて示した内容となっている(注2)。例えば、第1期トランプ政権は1974年通商法301条に基づき2018年7月以降、対中追加関税を発動した。バイデン政権はそれを引き継ぎ、これまでもNMPPsへの対抗を重視し、その対策に1974年通商法301条に基づく輸入制限措置の必要性を訴えてきた(2025年1月17日記事参照)。一方で、トランプ氏の関税政策は、同盟国と懸念国を区別しない点でバイデン政権とは異なる。トランプ次期政権は、米国現地の1月20日に発足する。今後具体的に示される、トランプ政権下での通商政策方針が注目される。
(注1)富裕層がさらに富めば、経済活動が活発化し、社会全体に利益が再分配されるという考え。
(注2)バイデン政権の通商戦略については、2024年2月9日付地域・分析レポート参照。
(赤平大寿)
(米国、中国)
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