トランプ米大統領の追加関税賦課発表に、米産業界は反対の声明発表(米国、メキシコ、カナダ、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2025年2月4日 14時0分
米国のドナルド・トランプ大統領は2月1日、カナダとメキシコに25%、中国に10%の追加関税を課す大統領令を発令した(2025年2月3日記事参照)。カナダとメキシコに対しては1カ月の適用停止が発表されたものの(2025年2月4日記事参照)、米国の産業界からは、新たな関税措置に対して反発の声が挙がった。
米国商工会議所は2月1日、関税は不法移民やフェンタニルの問題を解決するものではなく、「米国の家庭の負担を増大させ、サプライチェーンを混乱させるだけだ」との声明を発表した。農業者団体であるアメリカン・ファーム・ビューロー連合(AFBF)は2月2日、米国は2023年、メキシコに300億ドル、カナダに290億ドル、中国に260億ドル以上の農産物を輸出しており、これらトップ3への輸出額を合計すると全農産物輸出の約半分になること、肥料の原料鉱物であるカリの80%以上はカナダから輸入していることなどを挙げ、「農家や農村地域が報復措置の矢面に立たされることは、これまでの経験から分かっている。農家に対する報復措置の有害な影響は、農村経済全体に波及する」とする声明を発表した(2025年2月4日記事、2025年2月4日別記事参照)。米国自動車部品工業会(MEMA)は大統領令が正式に発表される前の1月31日、追加関税は「米国の自動車部品業界に深刻な影響を及ぼし、米国の雇用を脅かし、消費者のコストを増加させ、米国の競争力に不可欠な高度に統合された北米のサプライチェーンを弱体化させる」との声明を発表した。
今回の追加関税は、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいている。これまでの追加関税の根拠となっている1962年通商拡大法232条や1974年通商法301条などと比べ、措置の発動までに調査期間が必要ないことが特徴の1つだ(注1)。加えて301条や232条は、不公正な通商上の慣行や輸入拡大による安全保障への脅威など、あくまで通商上の理由に対して利用されるのに対し、IEEPAは通商に限らず、米国の安全保障に対する異常な脅威に対抗するため経済取引を制限できる点に特徴がある。トランプ大統領がかねて問題視している不法移民やフェンタニルの流入などを安全保障上の理由として関税賦課をする余地があるとして、以前からIEEPAの利用可能性が指摘されていた。IEEPAなどに基づけば、トランプ大統領が提唱する関税政策の大半は、米国の国内法で実行可能とされており(注2)、実際の発動にあたってのハードルは、産業界からの反発をトランプ大統領がどの程度勘案するかによるとみられる(注3)。今回、いくつかの団体は新たな関税賦課に反対する声明を出したが、完成車メーカーを主体とする自動車イノベーション協会(AAI)やデトロイト3で構成される自動車政策会議(AAPC)などは、2月3日時点で正式な声明は出しておらず、業界紙を通じた慎重なコメントにとどまる(2025年2月4日記事参照)。自動車メーカーにとって関税賦課は打撃となる一方、環境規制の緩和はメリットになるため(注4)、政権に対して難しい立場にいるとみられる。
(注1)IEEPAの詳細については、2024年12月10日付地域・分析レポート参照。
(注2)トランプ大統領の関税政策の方針については、2025年1月15日付地域・分析レポート参照。
(注3)関税措置によって損害を被った企業などが提訴する可能性が報じられているものの、判決がでるまでには数年かかるとみられる(政治専門紙「ポリティコ」2月2日)。WTO協定との整合性では、中国が既にWTOの紛争解決機関に提訴すると表明している。なお、301条や232条に基づく追加関税は、WTOのパネルにおいて協定違反との判断が出ている。
(注4)トランプ政権下での自動車環境規制の見通しについては、2025年1月15日付地域・分析レポート参照。
(赤平大寿)
(米国、メキシコ、カナダ、中国)
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