米USTR、鉄鋼過剰生産能力問題への対処に「現在の国際的な貿易ルールでは不十分」(日本、米国、EU、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年10月10日 14時20分
米国通商代表部(USTR)のスーシャン・デミルジャン代表補は10月8日、日本や米国、EUを含む26カ国・地域(注1)が参加する「鉄鋼の過剰生産能力に関するグローバル・フォーラム(GFSEC)」のオンライン閣僚会合に出席した。
USTRが同日に公表したデミルジャン代表補の発言要旨によると、同氏は鉄鋼の過剰生産能力の問題に関して、「この危機を引き起こした慣行や政策に対処するには、現在の国際的な貿易ルールでは不十分だ」と述べ(注2)、GFSECを通じた新たな取り組みの必要性を強調した。具体的には「新たな貿易状況の監視・規制ツールの開発、既存のツールのより創造的かつ積極的な利用が含まれるべき」と主張した。そのほか、米国独自でも「今後数カ月の間に、USTRは非市場的な慣行や政策の特定と対処に関する追加の政策手段を発表する予定だ」と明らかにした。なお、USTRは2024年3月以降、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化に向けた新たな政策手段を検討するプロセスを進めている(2024年6月7日記事参照)。
GFSECは、2016年のG20サミットで設立に合意した鉄鋼の過剰生産能力問題への集団的対応策の策定や実施を図る国際的なプラットフォームで、OECDが事務局を務める。今回の閣僚会合後に公表した共同声明〔OECD発表(原文)、経済産業省発表(仮訳)〕では、「過剰生産能力の発生源の国々から鉄鋼輸出が急増しており、過剰生産能力は依然として重大かつ拡大しつつある構造的問題だ」と指摘した。また「特筆すべきは、こうした輸出が合法的な貿易防衛策(注3)を回避することが増えており、各国の国内産業にさらなる打撃を与え、不公正な競争に対処する各国政府の努力を台無しにしている」として、迂回輸出への懸念を示した。
また、共同声明では、市場情報の透明性を改善することで迂回を含めた過剰生産能力の問題への対処に役立つ可能性があるとして、GFSEC事務局のOECDに対して、2025年6月までに最新の状況の詳細分析と、タイムリーに状況を可視化する監視ツールの開発を要請した。併せて、OECDに対して、2025年末までに過剰生産能力の根本的な原因と結果に効果的に対処するためのアプローチを検討するよう要請した。
共同声明の補足資料によると、世界の鉄鋼の需要と生産能力のギャップは、2023年に5億5,100万トンで、GFSEC参加国の鉄鋼生産量の合計を7,300万トン上回る。さらに、このギャップは2026年には6億3,000万トンに拡大する見込みで、2016年以降で最も高い水準に達する可能性があるとした。具体的な鉄鋼の輸出国として中国を例示し、「世界最大の鉄鋼生産国の中国からの輸出は2020年から2024年の間に倍増した」と強調した。
(注1)オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、EU、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、日本、韓国、ルクセンブルク、メキシコ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国。
(注2)米国は2018年3月以降、中国を中心とした過剰生産能力によって米国内産業が損害を受けていることなどを理由に、鉄鋼・アルミ製品の輸入に対して、1962年通商拡大法232条に基づく追加関税をそれぞれ25%、10%賦課している。
(注3)WTO協定は、貿易防衛措置・貿易救済措置として、緊急輸入制限(セーフガード)、アンチダンピング関税(AD)、補助金相殺関税(CVD)などを例外的に認めている。
(葛西泰介)
(日本、米国、EU、中国)
外部リンク
- カザフスタンで原発建設の是非問う国民投票、賛成が7割(カザフスタン)
- 米商務省、金融機関向け輸出管理順守のガイダンス発表(米国)
- 米主要港、8月小売業者向け輸入コンテナ量は東海岸港湾スト見越して増、今後は平年並みに(米国)
- ハイフォン市が外国企業との対話会開催、台風被害への対策も(ベトナム)
- 中西部激戦州でトランプ氏支持率がハリス氏超える、米大統領選世論調査(米国)
- EU加盟国、中国製BEVに対する相殺関税措置の導入を支持(中国、EU)
- 米大統領補佐官の訪中は米中首脳会談への布石となるか、ジェトロの米中月例レポート(2024年8月)(中国、米国)
- USMCAの自動車原産地規則に関する公聴会、産業界は厳格化に慎重姿勢(カナダ、米国、メキシコ)
- バイデン米政権、テキサス州南部国境の車両運行・歩行者用の橋建設を許可(米国、メキシコ)
- ドバイで第4回世界貿易・サプライチェーンサミット開催(アラブ首長国連邦、サウジアラビア、トルコ)
この記事に関連するニュース
-
米議会諮問委、中国に対する対外投資規制の強化やPNTRの撤回を提言(米国、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月21日 14時55分
-
トランプ新政権、商務長官に実業家ラトニック氏起用へ…高関税支持の強硬派
読売新聞 / 2024年11月20日 11時2分
-
トランプ氏、米商務長官に民間企業CEOのラトニック氏起用、関税政策を主導(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月20日 10時40分
-
米大統領選、共和党トランプ氏の勝利確実、関税など通商政策の先行き注視する声も(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月7日 10時20分
-
サリバン米大統領補佐官が講演、国際経済政策で同盟国との連携の重要性強調(米国、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年10月28日 13時35分
ランキング
-
1軍事費「増額続ける」=トランプ氏に配慮―前台湾総統
時事通信 / 2024年11月24日 15時29分
-
2韓国政府、佐渡で25日に独自追悼行事開催
共同通信 / 2024年11月24日 16時4分
-
3ガザ全域をイスラエル軍が攻撃、48時間で少なくとも120人死亡…レバノンでは空爆で20人死亡
読売新聞 / 2024年11月24日 18時47分
-
4飲料にメタノール混入か、ラオスで外国人観光客6人が相次ぎ死亡…日本大使館も注意呼びかけ
読売新聞 / 2024年11月24日 15時44分
-
5COP29 途上国支援「年46兆円」で合意 「目標額が少なすぎる」の声も
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月24日 11時43分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください