中銀、住宅ローンの再登場で外貨規制を緩和(アルゼンチン)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月25日 15時20分
アルゼンチン中央銀行は2024年7月23日、中銀通達A8073を公布し、外貨規制緩和措置を施行した。今回の措置は国の各種補助金受給者による優良スワップ取引(CCL取引)や電子市場決済取引(MEP取引)を禁じる措置を廃止するもの。
CCL取引は、アルゼンチン国債などのペソ建て、ドル建ての両方で取引ができる有価証券の売買を通じて、外貨を国外で取得する取引。MEP取引は、同様に有価証券の売買を通じて、国内で外貨を取得する取引で、いずれもアルゼンチンでは一般的に行われている取引だ。ペソ建て、ドル建ての有価証券の交換比率は、公式為替レートに比べて割高(ペソ安)だが、自然人による公式為替レートでの外貨購入の上限金額が月200ドルに制限されている中、CCL取引やMEP取引であればそれを超えて、外貨を合法的に取得することができる。2024年7月23日の公式為替レート(インターバンクレート)1ドル=927.33ペソに対し、MEPレートは1ドル=1,324.89ペソ(現地紙「エル・クロニスタ」電子版)となっている。
今回の措置の背景には、金利低下による住宅ローンの再登場がある。政策金利をみると、2023年12月末時点の100%から、2024年7月23日現在は40%まで低下している。住宅ローンはペソで実行されるが、不動産取引はドルで行われているため、借りた資金をMEP取引でドルに交換する必要がある。中銀は、この措置により、国の各種補助金を受給していた人々は、住宅ローンをペソで借り入れ、MEP取引でドルを取得して不動産取引を行うことができるようになるとの声明を発表した。国の補助金には、新型コロナウイルス感染症の蔓延(まんえん)期に提供された各種補助金や、光熱費への補助金などさまざまあり、中間層にも相当数の受給者がいる。
中間層の需要増で不動産価格上昇、住宅ローンはインフレの影響を受けるリスク
不動産仲介業者によると、ハビエル・ミレイ政権の発足により、不動産価格は上昇傾向にある。ブエノスアイレス市では、新型コロナウイルス感染症の蔓延期に不動産価格は底値を付けたが、足元では上昇に転じているという。要因は2つあり、1つは先述のとおり、住宅ローンの再登場による中間層の不動産購入需要の高まりだ。もう1つは、アルゼンチンのマクロ経済の正常化への国民の期待だ。住宅ローンは、2015年に発足したマウリシオ・マクリ政権下で1年半だけ復活したが、その後のマクロ経済の変調を受けて姿を消した。
再び登場した住宅ローンの利用が増えるか否かは今後のインフレ次第だ。再登場した住宅ローンはインフレ率連動型(UVA)であるため、対ドルのペソ下落でインフレ率が上がれば、その分ドル払いによる住宅の返済額も増える。賃金がインフレ率に連動して上がればよいが、実際にはそうはならないため、再び高インフレに陥った時に返済が困難になる可能性がある。ミレイ政権下で経済正常化への期待は高まっているが、4年後にどうなっているかはわからない。その点、住宅ローンを借りるリスクは高いといえる。
(西澤裕介)
(アルゼンチン)
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