IMF、紅海の混乱によるMENA地域の経済的損失と対応について提言(中東、湾岸協力会議(GCC))
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年5月29日 0時0分
IMFは5月13日、「貿易の多様化により、中東、中央アジアはより強靭(きょうじん)になる」と題した記事で、貿易構造の変化による中東・北アフリカ(MENA)地域(注1)の一部の国々への影響や、イスラエルとハマスの衝突が始まった2023年10月以降の情勢変化による紅海の混乱が長引くことの影響について発表した。同記事は4月の地域経済見通し(2024年4月24日記事参照、5月2日記事参照)に基づいており、今後の対応についても併せて提言している。
IMFは、ロシアとウクライナの戦争などによって、世界の貿易動向が変化したと指摘。貿易動向の変化は課題だけでなく、新たな機会を生み、例えば、アルジェリアやクウェート、オマーン、カタールなどのMENA地域の一部の国では、ロシア以外の石油とガスに対するEU側の需要急増に対応するため、2022年から2023年の間に、同地域へのエネルギー輸出が倍増したと報告している。
一方で、最近ではイスラエルとハマスの衝突に起因する紅海での船舶攻撃などで、海上貿易が混乱しており、スエズ運河を通過する船数が60%以上減少し(2024年5月17日記事参照)、サウジアラビアのジッダなど紅海沿いの港で貨物量が減少するなど、経済的な影響の大きさについて言及している。紅海の混乱が2024年末まで続いた場合、紅海沿岸諸国(注2)では平均で、輸出が約10%、GDPが約1%減少するとしている。また、他のMENA地域は同様に輸出が約5%、GDPが約0.3%減少すると予測している。
IMFは、こうした国際貿易が不確実な状況では、戦略的な先見性と積極的な政策改革が貿易による所得増大に寄与する重大な要素で、特に貿易規則の削減、インフラの更新、規制の強化に取り組む必要があるとしている。IMFでは、湾岸協力会議(GCC)諸国とそれ以外のMENA地域のそれぞれで、取り組みによってどれほど輸出とGDPが増加するかも予測している。2地域の比較では、MENA地域の方が輸出、GDPともに増加が大きいとしており、特に、貿易規則の削減では輸出が約18%増加すると見込まれるとしている。
MENA地域では、サプライチェーン管理の改善、新規サプライヤーの確保、代替輸送ルートの模索、航空貨物輸送ニーズの評価などにより、現在進行している輸送の混乱を緩和できるとしている。また、中期的には、域内での各国の連携強化が求められており、同時に革新的な輸送ルートの開発や、輸送インフラへの投資も重要になってくると指摘している。
イスラエルとハマスの衝突の詳細についてはジェトロの「特集」を参照。
(注1)IMFの定義では通常、MENA地域はアルジェリア、バーレーン、ジブチ、エジプト、イラン、イラク、ヨルダン、クウェート、レバノン、リビア、モーリタニア、モロッコ、オマーン、カタール、サウジアラビア、ソマリア、スーダン、シリア、チュニジア、アラブ首長国連邦(UAE)、ヨルダン川西岸地区とガザ地区、イエメンの22カ国・地域。イスラエルとトルコは含まない。今回の推計ではパキスタンを含む。
(注2)エジプト、ヨルダン、スーダン、サウジアラビア、イエメン。
(加藤皓人)
(中東、湾岸協力会議(GCC))
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