EU首脳、より厳格な移民政策の検討指示、競争力強化策は進展なし(EU)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年10月24日 0時20分
欧州理事会(EU首脳会議)は10月17日、ブリュッセルで公式会合を開催した(プレスリリース)。主な議題となったのは、ウクライナ支援と中東情勢、移民対策だった。
今回採択された総括によると、欧州理事会は、ロシアやベラルーシと国境を接するポーランドなどのEU加盟国との結束を表明し、例外的な状況にはそれ相応な対策が必要だとして、利用可能なあらゆる手段を用いた域外国境の管理を支持した。現地報道では、ポーランドは10月12日、ベラルーシによる移民を用いた「ハイブリッド攻撃」(2021年11月18日記事参照)を受けているとし、ベラルーシ国境を非正規に越境した者による難民申請の受理を一時停止すると発表した。
また、欧州理事会は、難民認定されなかった者の域外送還を迅速化すべく、欧州委員会に対し、新たな法案を至急提案するよう要請した。欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、難民認定されなかった者のうち出身国に送還された者は20%程度にすぎないとした上で、選択肢の1つとして「送還ハブ(return hub)」をEU域外に設置する案を議論したことを明らかにした。
多くの加盟国では、極右政党が躍進するなど右傾化が進んでおり(2024年9月2日付地域・分析レポート参照)、より厳格な移民政策にかじを切りつつある。フランス(2024年10月4日記事参照)、オランダ(2024年9月25日記事参照)、ドイツ(2024年9月19日記事参照)が国境管理や不法移民送還の強化を打ち出しており、イタリアはEU非加盟のアルバニアに設置した難民の「審査センター(processing centre)」の運用を開始している。
また、欧州理事会は既に、今後5年間の最優先課題を域内産業の競争力強化とすることで合意しており(2024年7月4日記事参照)。今回の総括でも、ドラギ報告書(2024年9月19日記事参照)やレッタ報告書(2024年4月25日記事参照)が指摘する課題に対応すべく、競争力の強化策を優先的に前進させることで一致した。一方で、両報告書が勧告として提示した具体的な政策については言及がなかった。
EU政策を専門とするシンクタンクの欧州政策センター(EPC)は10月21日に開催したセミナーで、両報告書が指摘した課題は目新しいものではなく、これまで加盟国間の相違により進まなかったものと指摘。現状として、こうした課題に対する政策を積極的に進める政治的意思が加盟国間でどこまで共有されているかは疑問であるとコメントした。
(吉沼啓介)
(EU)
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