蚊の生態からデング熱感染対策を探る
JIJICO / 2014年9月20日 12時0分
蚊の生態からデング熱感染対策を探る
デングウイルス運搬の担い手は「ヒトスジシマカ」
東京・代々木公園から始まったデング熱の感染が、今も拡大を続けています。デングウイルス運搬の担い手は、「ヒトスジシマカ」という蚊です。しかし、このヒトスジシマカは人の血液を好んで吸血するわけではありません。犬や猫、ネズミなどの哺乳類から鳥類、両生類やカメ、ヘビ等の爬虫類まで、なんでも吸血する「超悪食吸血昆虫」です。だからこそ、他の生物のウイルスを持ち込む危険性があるのです。米国では、このヒトスジシマカが、鳥の体内の「西ナイルウイルス」をヒトに媒介して大問題になっています。また、犬を殺す寄生虫「フィラリア」を媒介しているのもこの蚊です。
ヒトスジシマカは成虫になってから、寿命は約1カ月。その間に4回程度の吸血を行い、吸血後5日ほどで80個程度の卵を水たまりに産み付けます。血を吸うのは雌だけで、卵を作るためです。雄は花の蜜などを吸って生きている「完全菜食主義者」。雌の一回の吸血量は2mg程度になり、ほぼ蚊の自重と同じ分量です。また、ヒトスジシマカは意外なことに「昼行性」と言い、昼に活動する蚊です。正確に言えば、朝方と夕方に吸血活動のピークがあり、夜にはあまり活動しません。夜に枕元で飛んでいる蚊は、ほとんどが「夜行性」のアカイエカです。
ヒトスジシマカは飛翔力もあまり強くなく、行動範囲はせいぜい100メートル。完全な「野外待ち伏せ型」で、木陰や草むらで獲物が来るのをひたすら待つ典型的な「やぶ蚊」です。飛翔力が弱いため、移動するときも風の弱い「壁」や「塀」伝いがほとんど。獲物感知能力は4~5メートルで、動物の呼吸によって排出された二酸化炭素や汗の匂いに反応して集まってきます。ですから、早朝や夕方に短パン、ランニングなどで森林公園をジョギングすることは、ヒトスジシマカにとっては絶好のチャンスと言えます。
デング熱感染を避ける短期・長期対策
以上の生態を考慮した上で、ヒトスジシマカを避ける短期対策を紹介します。
(1)野外では明るい色の長袖長ズボンを着用。
(蚊は暗い色が好き。また、ストッキング程度では吸血できるため)
(2)外出時は虫よけ剤を使用する。
(日本の虫よけ剤は規制により薄いので、2~3時間しか効きません。野外活動が長引く際は、数時間おきに繰り返し塗布しましょう。また、野外用携帯蚊取器を過信しすぎないでください。もちろん、あった方が望ましいですが、経験上、つけていても何か所か刺されます。昔ながらの火を使った「蚊取線香」の方が、効果はあるように感じます)
(3)「蚊が来そう!」と思った場合、なるべく蚊の隠れる場所がない広い所に移動する。
(4~5mがヒトスジシマカの感知範囲なので、とにかくその範囲を脱すること。壁や塀伝いに飛来するので、そうしたものからも離れてください)
また、長期対策としては、とにかく水たまりを無くすことです。ボウフラを食べる魚や昆虫のいる池や沼より、天敵が存在しない水たまりの方が蚊には好適です。現在、アメリカにもヒトスジシマカが生息していますが、日本の中古タイヤをアメリカへ輸入した際、中古タイヤ内の「雨水」に蚊の卵かボウフラが潜んでいたため繁殖した、という話があるくらいです。
さて、これからのヒトスジシマカは、最後の卵を産む季節に突入します。後がない雌の吸血志向はより高まり、通常より活発に人間にも襲ってきます。ご用心ください。ちなみに、10月下旬~11月初旬で成虫は死滅するはずなので、いったんは「デング熱騒動」は沈静化するでしょう。成虫から卵へは、ウイルスはまず伝わりません。
(北川 実/理科講師)
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