それでも裁判員制度を続けるべきか?
JIJICO / 2014年10月9日 15時0分
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それでも裁判員制度を続けるべきか?
ストレス障害を発症したとして、国に慰謝料を求めた裁判も提起
市民が刑事裁判に参加し、有罪無罪や量刑を定める裁判員裁判制度が導入されてから今年5月21日で丸5年を迎えました。最高裁判所の発表によると、この間、全国で6060人の被告人に対し判決が言い渡されています。
1件について原則6人の裁判員、及び若干の補充裁判員が選任されることから、単純計算で、約5万人が裁判員として実際の刑事裁判に関わったことになります。
最高裁判所の統計では、アンケートの有効回答のうち、裁判員に選ばれる前には裁判に関わることを消極的にとらえていた人が51.4%に上っていましたが、実際に裁判員として裁判に参加した後では、95.3%が「良い経験に感じた」との回答をしているとのことです。
他方で、裁判員裁判は、裁判の長期化による負担や、裁判員のストレスなどのマイナス面も指摘されています。福島県では、裁判員として裁判に参加した人が審理の過程で凄惨な事件現場の写真を見せられたことによりストレス障害を発症したとして、国に慰謝料を求めた裁判(ただし1審は原告敗訴)も提起されています。
上級審において裁判員裁判の判断を覆す判決が出るように
私も現在までに裁判員裁判を7件担当しており、その中には性犯罪や凄惨な事件も含まれていました。このような経験から、私の感じる裁判員裁判の功罪・問題点をまとめてみます。
まず、裁判員裁判の導入の大きな理由は、刑事裁判に市民の常識を反映させる、ということがありました。私たち弁護士は、裁判員裁判の評議の場を知ることはできませんが、担当した事件の判決等を見る限り、どの事件でも裁判員の人はしっかりと事件について議論をされているとの印象を受けています。しかし、有罪無罪のシビアな判断を求められる事件、あるいはこれまでの裁判例と比較して極めて重い刑罰を選択した事件において、最近、上級審において裁判員裁判の判断を覆す判決が出るようになっています。
また、刑の内容については、性犯罪や親族間の殺人事件など、裁判員裁判導入の前後で刑の重さに統計上、有意な差が生じた事件類型がある反面、多くの事件はこれまでの裁判官による裁判と大きく変わらない刑罰となっているようです。その点では、これまでの刑事裁判が市民の常識とかけ離れていなかった、ということを裏付けたといえるでしょう。
一定の意義はあるが、制度のあり方について再度見直すべき
裁判員の負担という点でも、殺人事件や性犯罪などの凄惨な事件については、裁判員の負担軽減を理由に証拠の示し方を工夫すべきという議論がなされています。しかし、本来事件のありのままを審理し、有罪無罪の判断や刑罰を決めるのが刑事裁判です。裁く側の負担を考慮して事件の全てを見せないというのは、私には本末転倒の議論だと感じます。
さらに,実際の裁判では裁判員へのわかりやすさという点が要求されています。もちろん、わかりやすく事件を整理することは事件の本質を掴むことにつながりますが、それを追求するあまり、手続保障や内容の詳細な説明がおろそかになってしまう危険性は今も指摘されています。
ただ、裁判員裁判によって市民の刑事司法への理解や認識が深まったことも間違いない事実だと思います。あくまで私見ですが、一定の意義はある以上、直ちに裁判員裁判を廃止すべきとまでは考えていません。しかし、要件を満たす全ての事件が自動的に裁判員裁判とされる必要はないと考えます。例えば、裁判員裁判を、有罪無罪の判断を争う事件と被告人が希望した場合に限ることや、辞退をより幅広く認めるようにうるなど、制度のあり方について再度見直すべきではないでしょうか。
(半田 望/弁護士)
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