羽生選手の「美談」に警鐘 セカンドインパクトの恐怖
JIJICO / 2014年11月17日 15時0分
羽生選手の「美談」に警鐘 セカンドインパクトの恐怖
羽生選手の判断は、選手生命だけでなく命すら落としかねない
「フィギュアスケートGPシリーズ中国杯」で羽生結弦選手の身に起きたアクシデント。テレビやインターネットなどで衝突の映像を見て衝撃を受けた人も多いでしょう。しかし、その後、羽生選手は怪我を負いながらも強硬出場し、結果、二位になりました。
この姿を見て「気持ちの強い選手」「勇気をもらった」と感動した人もいれば、「今後のために棄権すべきだった」と羽生選手の将来を案じる意見もあります。実際、ブライアン・オーサー専属コーチが「今日、ヒーローになる必要はないんだ」と羽生選手に声をかけるシーンもありました。もちろん、選手としては、怪我をしても出場したいでしょう。監督やコーチが「無理するな!」と言っても、無理をしてしまうのが選手というものです。気持ちの強い選手ならなおさらです。
しかし、日本のフィギュアスケートをこれから牽引していく立場の羽生選手には冷静な判断が必要だったのではないでしょうか。このような姿勢が美化されてしまえば、これから羽生選手を目指してフィギュア選手を志す子どもたちや、他のアスリートに判断にも少なからず影響を与えてしまうことが懸念されます。それは、一歩間違えれば選手生命だけでなく、命すら落としかねないからです。
短期間に二度の脳震盪を起こすと致死率が50%を超えるケースも
そもそも脳震盪は、頭部や顎付近への衝撃によって起こる脳機能障害、脳の興奮によるものです。脳震盪の症状は「意識喪失 、めまい、ふらつき」「記憶喪失 嘔吐「錯乱及び失見当、頭痛」「モノが二重、または、ぼやけて見える」などが挙げられますが、基本的にこれらは短期症状です。
ひと言に脳震盪といっても程度により、意識消失がなく15分以内に症状が軽快するものを「軽度」、軽快に15分以上要するものを「中度」、数秒でも意識消失があるものは「重度」と3段階で判断します。軽度の脳震盪は、一度目であれば競技復帰が許可されますが、二度目以降は医師の判断により競技復帰を認めない場合もあります。
なかでも短期間に二度の脳震盪を起こすことを「セカンドインパクトシンドローム」といい、致死率が50%を超えるケースがあります。どんな競技でも、頭へのダメージは最も気をつけなければなりません。ラグビーなどのコンタクトスポーツ、ボクシングなどの格闘技はもちろん、レフリーが厳格な審査を行います。危ないと判断すれば、選手の意思に関係なく試合続行不能と止められます。一定期間、競技から離れる規定が定められている場合もあります。また、受傷後は安静にさせ、医師の判断に従い24時間は選手を一人にしないようにする配慮も必要です。それだけ頭部へのダメージは怖いのです。
選手の未来のために規定で選手を守ることが必要
頭部へのダメージはその時だけでなく、その後にも支障をきたします。頭部を支えている首は、頭に対して細いため、7つの頚椎と首の筋肉だけではなく、周りの筋肉、骨格、関節で支えています。衝撃の度合いによっては脊髄神経までダメージを負い、手や足が痺れるなど生涯にわたって症状が残る可能性もあります。
今後、このようなシーンが遭った場合、選手の意思だけでなく、選手の未来のために運営する協会などが規定で選手を守ることが必要でしょう。
スポーツは、世の中の人々に感動を与える素晴らしいものです。だからこそ、選手の命の危険を守ることは希望を守ることにつながります。選手をサポートする指導者、チーム、協会、スポンサー、メディアは、そのことを覚えておいてほしいと思います。
(伊藤 勇矢/柔道整復師)
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