「夫婦控除」は女性の社会進出を促すか?
JIJICO / 2014年12月25日 18時0分
「夫婦控除」は女性の社会進出を促すか?
安倍政権は「103万円の壁」が女性の就労を妨げる原因と主張
安倍政権は、女性の社会進出を支援する方法として、配偶者控除の廃止を検討しています。配偶者控除とは、年収103万円以下の配偶者を持つ人が38万円の所得控除を受けられる仕組みです。例えば、夫がサラリーマンで所得300万円(年収500万円程度)の場合、所得税率は10%ですので、38万円の所得控除は3.8万円の節税となります。
そして、妻がパート勤めの場合、年収103万円から税務上認められた必要経費を差し引くと、課税所得がゼロとなり所得税を納める必要がありません。つまり、妻が年収103万円で働くと、夫にとっても節税となり、妻自身も納税義務がない「お得な」働き方だったのです。これが俗にいう「103万円の壁」です。
また、この103万円を基準に、家族手当などを支給している会社も多いと言われ、実際多くの既婚女性の働き方として「103万円」が意識されているのは否めません。安倍政権は、この103万円の壁があるため、「もっと働ける女性であっても収入を調整している」「配偶者控除が女性の就労を妨げる原因となっている」と主張しているのです。
夫の年収から一律76万円の所得控除する「夫婦控除」が浮上
そこで代替案として浮上したのが、今回の夫婦控除です。配偶者控除と異なる点は、妻の年収に制限を設けず、夫婦であれば夫の年収から一律76万円の所得控除を実施するようです。
もし、これがそのまま適用されるようであれば、前述のサラリーマン家庭では、夫の年収から「38万円の所得控除」だったところが「76万円の所得控除」となるため、節税効果は7.6万円と倍になります。また、妻自身の年収も変わらず103万円であれば、納税義務は発生しないため、単純に考えれば「よりお得な」制度となります。
子育てをしながら働ける環境づくりとしてはインパクトが小さい
しかし、この夫婦控除で、これまで税務上の理由から収入を調整していた女性たちが、103万円を気にせず、どんどん働くようになるのでしょうか?
実際103万円のままであれば、夫の節税額は大きくなりますので、家計にはプラスです。しかし、年収が103万円を超えると妻に所得税の支払いが発生してきますし、年収130万円を超えると妻自身が社会保険に加入し、保険料を支払うことになります。そう思うと、夫婦控除になったからといって、すぐに女性の働き方が大きく変わるわけではないように思います。
一方、共働き夫婦にとって「夫婦控除」は朗報です。これまで妻が働くことで認められなかった配偶者控除がなくなり、夫婦の年収に関わらず、夫が76万円の所得控除を受けられるのですから、税金分、家計がプラスになります。しかし、所得税率10%の人であれば所得控除76万円の恩恵は年間7.6万円。これでは、1か月の保育料程度に過ぎず、安倍政権が望む、女性が子育てをしながら働ける環境づくりとしてはインパクトが小さいようにも感じます。
女性の就労支援なのか、子育て支援なのか、目的が中途半端な印象
また「夫婦」を基準に税制優遇を設けると、非婚で子育てをしている人にはそのメリットが届きませんし、女性を既婚か独身かで区別してしまう税制が本当に女性の社会進出を後押しする制度なのか、という疑問も残ります。制度の目的が、女性の就労支援なのか、子育て支援なのか、どうも中途半端な印象です。
ただ、こうした社会の流れは、家計に少なからず影響を及ぼしてきますし、女性の就労は間違いなく家計のプラスになるわけですから、これを期に税金の仕組みを学ぶなどしてしっかりと生活設計をしたいものです。
(山中 伸枝/ファイナンシャルプランナー)
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