残業代ゼロ制度、日本特有の働き方を変える期待
JIJICO / 2015年1月13日 15時0分
残業代ゼロ制度、日本特有の働き方を変える期待
年収1075万円以上の専門職に限り、週40時間の規制を外す
厚生労働省は7日、働く時間ではなく成果で賃金を支払う「ホワイトカラー・エグゼンプション」の制度案をまとめました。年収1075万円以上の専門職に限り、週40時間といった労働時間の規制を外し、労働時間ではなく成果に応じて給料を支払えるようにするという内容で、いわゆる「残業代ゼロ制度」として話題になっています。
しかしながら、実は現在でもすでに「裁量労働制」といって、デザイナーや士業、コンサルタント、ソフトウェア開発者、教授などの専門職に従事する人や、事業の運営に関する企画、立案などの業務を自らの裁量で遂行するホワイトカラー労働者に対して、実際の労働時間が何時間であろうと、労使協定で定めた時間を労働したものとみなす制度は存在します。
では、この2つの制度の違いは何かというと、「裁量労働制」では、休日や深夜労働に対する残業代の支払い義務は免れませんが、「ホワイトカラー・エグゼンプション」ではこの支払い義務も生じません。つまり、乱暴に言うと、休みであろうが真夜中であろうが、どれだけ働かせても割り増し賃金の支払い義務が生じないということです。
「ダラダラ残業」が評価される働き方を変えることが必要と判断
政府が一見、労働者にとって不利に見えるような制度の導入に踏み切るのは、いわば「ダラダラ残業」をしている人の方が、定時内できっちりと仕事を終わらせる人よりも評価されることが多い日本特有の働き方を変えるため、少子高齢化で労働力人口が減る中、生産性を高める政策面の後押しが必要と判断したからです。
ここに面白いデータがあります。ある新聞の取材班が新橋のサラリーマン50人に調査したところ、職場に「ダラダラ残業」をしている人が「いる」と答えた人は半数にも上りました。一方、「あなたはダラダラ残業をしていますか?」との問いには、全員が「いいえ」と答えたとのことです。このギャップが現在の日本の働き方の大きな問題点といえるでしょう。
確かに「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度が目的通りにうまく運用されれば、労働者にとっても、必要なときはバリバリ仕事をし、余裕があるときは余暇をたっぷり取ってリフレッシュするという、理想的な働き方が可能になります。また、時間ではなく内容で賃金が決まるため、能力が高くて定時内に仕事をさっさと終わらせられる人より、ダラダラと遅くまで残業をしている人の方が賃金が高いという不公平は改善されるでしょう。
残業代削減という「労働条件の改悪」に利用される懸念も
一方、今回の「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度の対象となる年収1075万円以上の専門職についてはこういったデータもあります。
ある転職サイトが約6万8000人のビジネスパーソンに残業時間について調査した結果、年収と残業時間の関係において、「年収300万円~500万円」の月刊平均残業時間は45時間強、「年収500万円~750万円」が50時間と年収とともに残業時間が増え、「年収1500万円~2000万円」の人は60時間に達していました。また、35歳~39歳の「年収1250万円~3000万円」の人は残業時間が75時間にも達しています。これを残業代に換算すると、年間で約250万円程度にもなります。
つまり「ホワイトカラー・エグゼンプション」が導入されると、これらの対象者は年収が250万円も少なくなる可能性があるということです。
今回の制度導入が、労働者の自由な働き方の後押しと、労働の質の向上の礎になるという正しい名目ではなく、単なる残業代削減という「労働条件の改悪」のうまい口実に利用されないことを願うばかりです。
(吉田 崇/社会保険労務士)
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