個人の自由か国益か「パスポート返納命令」をどう見る?
JIJICO / 2015年2月14日 9時0分
個人の自由か国益か「パスポート返納命令」をどう見る?
パスポート返納命令に賛否両論が渦巻く
2月7日、外務省がシリアへ渡航しようとしたフリーカメラマンに対し、パスポートの返納を命じたというニュースが話題になっています。
この命令は、旅券法19条1項4号を根拠に行われたと報じられています。同条項は、「旅券の名義人の生命、身体又は財産の保護のために渡航を中止させる必要があると認められる場合」に、外務大臣などが期限付きで旅券(パスポート)の返納を命ずることができるとされています。「シリアに行くなんて危険だから、それを止めるのはやむを得ない」と考えた人もいれば、むしろ「何が問題かわからない」という意見もあり、賛否両論が渦巻いています。
海外渡航の自由が旅券返納と相反するところが問題のポイント
今回の旅券の返納に関し、どこに法律上の問題があるかといえば、直接的には憲法に由来する「海外渡航の自由」という権利との兼ね合いということになります(その他、本件では報道の自由なども考えられますが、中心となるのは万人に共通する「海外渡航の自由」です)。諸説ありますが、憲法22条2項は、海外に移住する自由を明示的に認めていますので、海外移住に満たない海外渡航の自由は当然に認められると考えられています。
ただし、これは常に認められる権利というわけではなく、「公共の福祉に反しない限度で」認められる権利です。要するに「公の秩序を乱さないという前提のもと憲法は自由に海外渡航を行うことを認めている」ということです。この海外渡航の自由が、今回の旅券返納と相反するところが、この問題のポイントです。
命を失う危険が高い。旅券返納命令は「正しい」という結論が妥当
では、このたびの旅券返納命令については、法的にどのように考えるべきでしょうか。つい先月、二人の日本人がシリア周辺に拠点を持つ「ISIL」の者に捕えられ殺害されました。この件で「ISIL」は、日本人を捕えて金や同志の解放などを求め、隣国であるヨルダンをも巻き込んでの大騒動に発展しました。挙句の果てには、「大勢の日本国民を、たとえどこにいようと殺すことになるだろう」と述べています。
直近でこのような痛ましい事件が起き、日本国民を殺すというメッセージを出している得体の知れない「ISIL」。フリーカメラマンは「そこには足を踏み入れるつもりはない」と言っているようですが、仮に足を踏み入れなくても味方を装って拉致されたり、情報を売られて捕えられるという危険性が無いということは、誰も言いきれないのではないでしょうか。そのため、今、このタイミングでシリアへ渡航することは、命を失う危険が十分にあるといえると思います。そう考えると、今回の旅券返納命令については「正しい」という結論が妥当ではないかと個人的には思います。
もちろん、憲法学者らが異論を述べるとおり、このたびの旅券返納問題が個人の自由よりも国益を重視した「悪しき前例」とならないよう、旅券の返納期間や返納者への十分な説明という点はよく考えないといけないとは思います。このフリーカメラマンも今回の命令に対して裁判で争う姿勢を示しているようです。「憲法上、認められた自由」と「渡航者の命を守ることの重要さ」を裁判所がどのように判断するのか、という視点で注目したいところです。
(河野 晃/弁護士)
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