生活保護制度は甘い?弁護士が知る実態
JIJICO / 2015年3月16日 15時0分
生活保護制度は甘い?弁護士が知る実態
生活保護費や医療費の増大に国民は強い関心
最近、毎月のように「生活保護の受給者・受給世帯が過去最高」というニュースを目にします。過去最高の数字の後に、その後も毎月増加していれば、過去最高になるのは当然なので、もはやニュースソースの価値はないのではないかとも思いますが、それでもこれだけ頻繁に報道されるのは、アベノミクスの一方で貧富の差の拡大を象徴する話としてインパクトがあるのでしょう。
また、日本経済に閉塞感が漂う中で、生活保護費や医療費の増大という問題には、国民の強い関心があることの表れだとも思います。
弁護士にとって生活保護制度や受給者は身近な存在
さて、街の弁護士として仕事をする中で、生活保護制度やその受給者は、大変身近な存在です。中でも最も多いのは、生活保護受給者の借金の整理です。生活保護受給者は、保護費を使って借金を返済することは許されませんので、自治体の生活支援課は生活保護を受ける段階で原則として借金の整理を求めます。多くは自己破産です。このため、弁護士は生活保護受給者や受給予定者の自己破産手続きを行うことが多くあります。
また、弁護士が借金の相談で訪れた依頼者に生活保護の制度の利用を助言したり、実際に生活保護の申請を支援したりすることもあります。現在は、法律扶助の制度により、生活保護受給者は弁護士費用を当面負担せずに債務整理をすることができますので、生活保護受給者にとっては弁護士に依頼するハードルは経済的にも高くありません。
「仕事を探す努力が足りない」というような人は探す方が難しい
生活保護世帯の増加というニュースを聞くと、不正受給のニュースなども影響して「真面目に働いている人間が損をしている」と感じるなど、否定的な感想を持たれるかもしれません。
しかし、仕事上、毎年、何十人と生活保護受給者を見ている弁護士からすると、「この人には生活保護は必要ないのでは」と思うケースはほとんどありません。重い病気・障がいや不慮の事故による後遺症などを抱えて働けない人、離婚して頼る身内もいない中で子どもを抱えて仕事がどうしてもすぐに決まらない人、高齢で働けず受給できる年金もない人など「仕事を探す努力が足りない」というような言葉で片付けることのできる人は探す方が難しいぐらいです。
生活保護は、簡単に支給されるほど甘い制度ではない
逆にいえば、現場で保護の実態をみていると、生活保護は、誰が見ても本人の努力不足、意識不足と思うようなケースで簡単に支給されるほど甘い制度ではないように感じます(しばしば生活保護窓口の水際作戦なども問題にされます)。
先ほどの借金の整理の話にしても、なぜ、生活保護と借金の整理事案が多く結びついているかというと、生活保護受給に至る過程で、多くの人はギリギリまで誰にも頼らず、自分で何とかしようと抱え込み、借金を重ねてどうしようもなくなってから弁護士や行政に相談するからでもあります。
また、別の視点ですが、生活困窮者の家庭の子どもたちを見るにつけ、親がさまざまな事情で貧困であっても、生活保護で最低限の文化的な生活ができる経済環境を整えてあげ、子どもたちが可能な限り平穏で温かい環境、教育を受けられる環境で過ごせるようにしてあげたいという気持ちを切実に持ちます。
現在の年金納付制度をどう改革するのかを考える必要はある
もちろん他方で、現在の生活保護制度には、たくさんの問題があると思います。例えば、就労支援のアイデアもまだまだ不足しています。
そして、生活保護世帯が増える原因の一つは高齢化の中で年金受給ができない世帯が増加していることですが、現在の年金納付制度をどう改革するのか、年金受給額と生活保護費の逆転現象など生活保護から脱却する意欲を阻害する要因をどう除去していくのかを考える必要があるでしょう。
また、生活保護費の大部分を占める医療費の削減問題など、経済が右肩上がりではない中で生活保護費を削減する政策的対応が必要であることは言うまでもありません。
(永野 海/弁護士)
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