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渋谷区「同性パートナー条例」成立にある懸念点

JIJICO / 2015年4月7日 14時0分

渋谷区「同性パートナー条例」成立にある懸念点

渋谷区「同性パートナー条例」成立にある懸念点

証明書に「法的拘束力」はない

東京都渋谷区で、同性カップルに「結婚に相当する関係」を認める証明書を発行する旨の条例が成立しました。4月1日から施行されており、平成27年度中に証明書が発行される見込みですが、このような条例の制定は全国初のことです。同性カップルは賃貸物件の入居や病院での面会に際し「家族ではない」との理由から断られることが多いため、渋谷区が「パートナーシップ証明」を発行して「夫婦と同等」の扱いをするよう求めるものです。

この証明書に「法的拘束力」はありません。条例には「区民および事業者は…最大限配慮しなければならない」と明記されていますが、証明書を得たカップルは家族向けの「渋谷区営住宅」への入居申込が可能になる反面、私企業から「家族手当」の支給など、福利厚生制度の適用の有無は各事業者の裁量に委ねられます。

憲法で「同性婚」は想定されていない

さて、この条例には根強い反対論があります。特に「結婚に相当する関係」という概念は「同性婚」に準ずるもので、国レベルの法律ですら認めていない「同性婚」を認めるかのような内容の条例を、自治体が勝手に制定することは許されないとの強い意見があります。

確かに、戸籍法では「夫婦が称する氏」を婚姻届への記載事項と定めており、法律上「同性婚」は想定されていません。他方、民法の定める婚姻の成立を「異性カップル」に限定する条文はありませんが、これには理由があります。そもそも、日本国憲法が「同性婚」を想定していないという大前提があるからです。

すなわち、日本国憲法第24条1項は「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と規定しています。ここでは明確に「両性の合意のみ」と規定されていますから、「同性婚」は想定されていないというのが素直な憲法解釈でしょう。

家族制度として「同性婚」は一代限りの例外的な存在

もちろん、別の解釈も成り立ちます。日本国憲法第14条1項が定める「法の下の平等」や第13条の「個人の尊重」及び「幸福追求権」などから、我が憲法下においても「同性婚」は認められるという解釈です。この解釈では、第24条1項は婚姻の自由と男女の平等を規定するだけに過ぎず、「同性婚」についてはニュートラルであり、特にこれを禁止するまでの意図はないことになります。

しかしながら、「婚姻制度」は憲法秩序において重要な要素の一つです。国家・国民の永続性を支える「家族制度」の根幹といっても過言ではないからです。ところが、生物学的レベルの問題として「同性婚」は次世代へのバトンタッチを前提としていません。そのため「家族制度」の本質からいえば「同性婚」は一代限りの例外的な存在です。その意味で、国家・国民の永続性を支える憲法秩序としての「婚姻制度」の中に、「同性婚」を組み込むことには無理があります。ですから、日本国憲法は「同性婚」を想定していないとする解釈の方が正しいと私は考えます。

「婚姻制度」に手を加える方向性は大変な危険性を孕んでいる

もっとも、同性カップルの存在は社会的事実であり、少数者の人権を保障することも必要だとは思います。ただ、賃貸物件の入居や病院での面会を断られるといった問題は、身寄りのない「友人同士」が一緒に暮らそうとする場合にも起こり得る現象です。「結婚に相当する関係」を認めれば、すべてが解決するわけではありません。この点、例えば当事者の契約に基づき「家族に準ずる関係」を構築することを広く認め、社会的に認知させることによって解決する方策も必要ではないかと思われます。

同性愛は個人の自由であり、日本国憲法もこれを許容していると考えられますが、上記のとおり、我が国の憲法秩序としての「婚姻制度」と同性愛とは、そもそも相容れない関係にあります。渋谷区の条例を「世界的な趨勢に従ったもの」と評価する向きもありますが、少数者の人権保障を理由に、国家の存亡に関わる「婚姻制度」に手を加える方向性は大変な危険性を孕んでいると思われてなりません。

(藤本 尚道/弁護士)

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