「威力」かどうか?「ドローン」裁判が私たちに問いかけるもの
JIJICO / 2015年8月23日 18時0分
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「威力」かどうか?「ドローン」裁判が私たちに問いかけるもの
「ドローン」を使った行為は威力業務妨害罪に当たるか
今年に入り、急に耳をする機会が増えた言葉の一つが「ドローン」ではないでしょうか。私のような機械に弱いタイプは、最初に聞いたときは「ドロン」(漫画などで忍者が姿を消すときに使われる効果音)と聞き間違えてしまい、未確認飛行物体のことかしら、なんて的外れなことを考えておりました。どうやら違うらしいと思って調べてみると、軍事用から農薬散布などの商業用や個人の娯楽用まで、幅広く利用されている無人航空機のことなんですね。
「ラジコン」が空への夢とロマンを掻き立ててくれていた時代から一歩進んで、ひゅーっと滑らかに飛ぶ「ドローン」の姿は、なんだか未来的でかっこよく、自分で操縦してみたいと思わせる不思議な魅力を感じます。
さて、そんな「ドローン」を使った行為が、刑事裁判で裁かれようとしています。みなさまも報道を目にされていると思いますが、今年4月に首相官邸屋上で発見された「ドローン」について、それを飛行させ、首相官邸の屋上に落下するように操作した男性の行為が、威力業務妨害罪(刑法第234条)という罪に当たるかどうかが争われています。
誰かの意思を抑圧するような勢いを示しのかが争点に
私は実際に法廷を傍聴しておらず、裁判については報道で知る限りの情報となってしまいますが、男性の弁護人は男性の行為について、原子力発電所の再稼働に反対する、憲法で保障された表現行為だとして無罪を主張されているようです。そもそも、威力業務妨害罪というのは、誰かの意思を制圧できるような勢いを示すこと(これが「威力」です)で、誰かの仕事の邪魔をすることを罰する犯罪です(分かりやすさのため、判例の言い回しを少し私なりに変えています)。
そうなると、今回の事件は男性が行った「ドローン」の操作が、誰の意思を制圧できるような勢いを示したことになるのか、がまず問題になります(報道によれば、男性側は2週間誰も落下に気付かなかったと主張している点は、今回の行為が「威力」に当たらないという主張だと思われます)。最高裁判所の判例では、現実に誰かの意思を制圧していなくても「威力」にあたるとされているので、男性の主張はこの判例を踏まえた上で説得力を持つ必要がありそうです。
また、もし男性の行為が「威力」に当たるとしても、男性は原子力発電所の再稼動に反対する表現として行ったのだから、表現の自由(憲法第21条)として許されるのではないかとの主張も問題となります。表現の自由として許される場合には、男性の行為が「威力」に当たる場合でも、違法ではない行為として扱われ、無罪となります。さらに、報道されていないので今回の裁判では問題になっていないかもしれませんが、「ドローン」について進む法規制を根拠に、裁判を争うこともできそうです。刑法の基本的なルールとして、罪として定められていない行為は犯罪にならない罪刑法定主義というものがあります。
裁判をきっかけに、「ドローン」を巡る議論はより深まる
今回の事件を受けて、「ドローン」の飛行規制法案が作られたり(国の重要な建物の上空やその近くの飛行を規制するものです)、航空法が改正されようとしたりしている(人に危害を与える危険があるような飛行を規制するようです)動きからは、そのような規制がつくられる前に行った男性の行為を、むりやり威力業務妨害罪で犯罪として扱うことは、罪刑法定主義に反するのではないかという問題提起もできるでしょう。
この「ドローン」裁判をきっかけに、「ドローン」を巡る議論はより深まりそうです。それに伴い「ドローン」飛行についての法規制が進めば、「ドローン」を利用した仕事や趣味にとっての影響は避けられません。その逆に、空から「ドローン」が落ちてくる心配をせずに外を歩ける、という安全を得られるという点では、規制も悪い面ばかりじゃないですよね。
「個人の自由」を国がどんな場合に制限するのかを問いかけている
思えば、私たちは、さまざまな自由を謳歌しながらも、それが誰かの迷惑にならないように気を遣うことも忘れずに、社会の中で譲り合いながら生活しています。今回の「ドローン」裁判は、最先端の技術を使った無人飛行機を巡るものでありながら、むしろ社会の中で育まれてきた譲り合いの気持ちを思い出させてくれるような気さえしてきます。
それでもやっぱり、私たちは個人として尊重され、自由が与えられている存在であること、それが原則だと思いませんか。この「個人の尊重」については、憲法第13条ではっきりと保障されています。個人の自由を、国がどのような場合に制限(今回は刑罰を課されるのか)できるのか、「ドローン」裁判は、そんな大きくて大切な問題をあらためて問いかけているのではないでしょうか。
(菅原 直美/弁護士)
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