裁判員に遺体写真を見せるか否か?一定の負担はやむなし
JIJICO / 2015年8月29日 18時0分
裁判員に遺体写真を見せるか否か?一定の負担はやむなし
裁判員に遺体の写真などを見せるかどうか
市民が裁判官とともに刑事裁判の審理に参加する裁判員裁判が導入され、早くも6年余りが経過しました。この間、審理の長期化による裁判員の負担や、死刑が求刑される事件の審理のあり方など、いくつかの問題点が指摘されています。
そのような中で、昨今「遺体の写真等、衝撃的な証拠を裁判員に見せるか否か」をめぐり、各地の裁判所で運用の変化が生じています。例えば、いくつかの裁判員裁判では、被害者の写真ではなく負傷箇所のイラストが表示された例や、白黒にした写真を証拠とした例があるようです。
裁判員の負担軽減には賛否が分かれる
この問題の発端は、2013年に福島で発生した強盗殺人事件の審理において、現場や遺体の写真を見た裁判員がストレス障害と診断され、障害を発症したことの慰謝料を求めて国賠訴訟を提起した事件にあります。当該国賠訴訟は、最高裁において裁判員制度が合憲であると判断して請求を棄却しましたが、裁判員制度の合憲性も含め、裁判員から国賠訴訟を提起されたことは当局も重大に受け止めたものと思われます。
報道では、国賠訴訟が提起された後、「東京地裁が衝撃的な証拠について代替手段の有無も考慮し、採否を慎重に吟味する」との申合せを行い、最高裁からも各地の裁判所に対して裁判員の負担軽減への取り組み例の情報提供がなされたようです。
しかし、このような対応については賛否が分かれています。捜査機関や被害者からは、イラストでは被害の実態が伝わらないとの意見が出され、また、市民がイラスト等で適切に事実認定ができるかどうかにも疑問が持たれています。反面、衝撃的な証拠を見たことで精神的負担を感じたという裁判員の意見や、証拠のインパクトが強すぎる場合に判断が偏る危険性も指摘されています。
被害者の負傷状況は弁護側にとっても重要な証拠
遺体の写真や生々しい怪我の写真、あるいは司法解剖の結果を記録した証拠は、刑事事件を取り扱う弁護士でも目を背けたくなることがあります。ましてやこのような証拠を見る機会がなかった市民の負担というのは、大きなものがあることは否定できません。
また、被告人が事実関係を争っていない場合などで凄惨な写真を見た結果、被告人に対して重い判決が出される可能性も否定できないと思います。しかし、犯行態様や負傷の内容などの事実関係が争われている事件において、被害者の負傷状況は弁護側にとっても重要な証拠になります。
裁判員裁判は誰のためにあるのか
さらに、正当防衛を主張する事案では、被告人にも怪我がある場合、被告人の怪我の状況を正確に裁判員に理解してもらうことも不可欠でしょう。裁判員の負担軽減の必要性を否定するものではありませんが、裁判を受ける被告人の権利保障と、有罪無罪の判断をきちんと行うためには、裁判員に一定の負担がかかることもやむを得ないのではないかと思います。
今後は裁判員の負担と裁判員裁判における刑事手続の適正な運用をどう調整していくか、ということが検討されるものと思われますが、検討において裁判員裁判は誰のためにあるのか、という視点がずれないことを祈るばかりです。
(半田 望/弁護士)
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