国民の義務?「徴介制」が投げかける介護の現実
JIJICO / 2016年3月21日 9時0分
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国民の義務?「徴介制」が投げかける介護の現実
徴介制の投書が投げかけた介護の実態
「徴兵制ならぬ、『徴介制』を設けてはどうだろう」――。50代の女性が朝日新聞に寄せた、「18歳になったら介護施設で介護に携わってもらう」制度をつくってはどうか、という投書が波紋を広げています。
「徴介制」という突拍子もない言葉に戸惑いながらも、介護に関する問題提起としては無視できない考え方であるとも思われます。
介護を身近に感じる機会として一石を投じる投稿ではないでしょうか。
ただ、もしこれがそのままでないにしろ、取り入れられるとするといろいろ問題がありそうです。
介護の本質・他制度の運用状況を鑑みていくつかの視点で考えてみます。
介護業務が強制的でいいのか?
先述した通り、徴兵制という言葉に準えて「徴介制」がでてきたわけですが、これは平たく言うと、「強制的に介護業務に就かせる」という意味になります。
はたして、強制的に介護に携わることで、求められている結果に結びつくのでしょうか。私はそうは思いません。
強制されるほどそれに反発するのは人間誰しもそうでしょうし、それによって介護に対して嫌悪感を抱かれてしまうとなれば本末転倒です。
今後介護の仕事に就きたい人のために実施される「介護実習」に求められる期待値とはほど遠い結果になるでしょう。
利用者本位はどうなる?
強制的にたずさわられる方は、利用者にとって迷惑以外の何物でもありません。
利用者は心地よく生活をしたいだけなのに、強制労働の従事者に介護を受けるということは、苦痛に感じるかもしれません。
本制度により介護の量は担保できるとしても、介護の質を問われる現代に逆行する考え方とも言えるでしょう。
教員免許取得に伴う「介護等の体験」の現実
徴介制ではないが、実は日本で似たようなことが実施されています。
平成10年4月より、教員免許を取得する者は、7日間の「介護等の体験」が課されます。免許状申請の際、この修了証明書を提出しないと、免許状の交付を受けることができません。
そもそもその目的は、「人の心の痛みのわかる教員、各人の価値観の相違を認められる心を持った教員の実現に資する」ことにあるため、観点は違いますが、今後教員になる者が、福祉施設等で介護体験を行わなければならないという点では本議論に似ています。
現在のところ、この制度に対して見直し等の議論は行われていませんが、この体験を行い、教員免許を取得することを辞して介護をすることになった若者を私は聞いたことはありません。(もっとも、免許状を取得して福祉の業界に就職した事例は多いと思いますが。)
すなわち、この「強制的な体験」は、あくまで免許状取得のための「義務」を果たすために行われているものであり、そもそもこれにより介護職の魅力を伝えることなど無理なのです。
同様に考えると、福祉従事者を増加させる・介護の魅力を伝えることを目的として「徴介制」を導入するということは、この状況を考えると現実的には難しいでしょう。
徴介制が投げかけた介護の問題点をみんなで考えることが重要
このような視点で考えると、徴介制という言葉には斬新さを感じますが、現実的ではないと考えます。
しかし今回、徴介制が投げかけた問題提起により、多くの人が介護を自分事として考えることがあったとしたら、意義は大きいと思います。
そして、これとは違った形で介護職の魅力を伝えていく手段を考えていかなければならないでしょう。
(馬淵 敦士/介護福祉士)
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