裁判員法違反で初の逮捕者が投げかける裁判員裁判の問題点
JIJICO / 2016年7月25日 9時0分
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裁判員法違反で初の逮捕者が投げかける裁判員裁判の問題点
裁判員法違反で初の逮捕者
先日、暴力団幹部の裁判員裁判に際し、初公判のあと裁判員に声がけし威迫したとして、元組員ら二人が裁判員法違反(請託、威迫)の罪で逮捕、起訴されました。
裁判員法違反での逮捕、起訴はいずれも施行以来はじめてのことです。
報道によれば、元組員ら二人は、公判後、路上などで裁判員に対し、「あんたらの顔は覚えとるけね」「よろしくね」などと声がけをしたとのことです。
この事件が発生した裁判員裁判では、その後裁判員らが審理を辞退したため、判決期日が取り消されました。
また、裁判所は、裁判員が怖がり参加が困難な状況だとして、この裁判を裁判員裁判の対象から除外し、裁判官だけで審理することも決めました。
そもそも、暴力団関係の事件などでは、裁判員への危害を避けるため裁判員裁判から除外することが可能ですが、この事件では検察側が除外請求をしていませんでした。
裁判員裁判の根幹に関わる問題
ご存じのとおり、裁判員裁判は、刑事裁判の審理・判決に国民が参加することにより、国民に分かりやすい裁判にし、国民の司法への理解を深めることを目的として2009年に導入されました。
裁判員は、20歳以上の有権者から無作為に選出されます。
裁判員裁判では、裁判官や裁判員らの間で自由な話し合いがなされることがとても重要になります。
そして、自由な話し合いや自由な判断を行うためには、裁判員の安心や安全の確保が不可欠です。
今回の事件は、今後の他の裁判員裁判も含め、裁判員が安心して審理などを行えるかどうかという問題に大きな影を落とすもので、制度の根幹に関わる問題と言えます。
現状の裁判員の安全確保体制は?
現在の裁判員法は、事件に関連して裁判員に接触することを禁止しています。
また、裁判員や裁判員であった者、またはその親族に対して、面会、文書送付、電話、その他方法を問わず威迫行為を行ったものに対しては罰則が定められています。
また、裁判所は、裁判員に選ばれた人の名前や住所は公にしない、裁判員が法廷や評議室へ移動する際、事件関係者と接触することがないように工夫する、撮影を望まない裁判員のために取材制限などをするなど個人情報の取扱いや裁判所内においての安全確保については一定の対応を行っています。
しかしながら、裁判所外での裁判員の安全確保に関しては、有効な対策が十分にとられていないのが現実です。
今後の改善策は?
かつて日本でも導入されていた「陪審制」では、陪審員は裁判所構内の陪審員宿舎に泊まることとされていました。
また、アメリカの有名なO.J.シンプソン事件では、裁判期間中、陪審員はホテルに隔離されて審理を続けていました。
これらは、陪審や裁判の公正の確保という点からなされたものではありますが、裁判員の安心や安全を図るための措置としても公用車による送迎や宿泊への配慮なども検討要素でしょう。
しかし、こうした対策は行き過ぎると裁判員への大きな制約ともなり、裁判員裁判自体の停滞にもつながりかねません。
裁判所では、家事事件などで、当事者が顔を合わせないように、待機場所や時間を変えるなどの配慮がなされます。
裁判員裁判でも、危険が予想される場合には、裁判所内の移動だけでなく、裁判所外の移動の際にも十分な安全への配慮をしたり、前述した裁判員裁判からの除外決定をより積極的に活用するなど裁判員への負担をなるべく伴わない形での安全対策が急がれます。
(永野 海/弁護士)
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