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いわゆる“冬季うつ病”について、その由来も含め正確に理解する

JIJICO / 2016年12月30日 9時0分

いわゆる“冬季うつ病”について、その由来も含め正確に理解する

いわゆる“冬季うつ病”について、その由来も含め正確に理解する

「冬季うつ病」とは「季節性気分障害」の一つ

いわゆる「冬季うつ病」については、その言葉が先行してその実態が誤解されている懸念もあります。
そこでその由来を含めて何であるかを、権威ある情報源に基づき再確認したいと思います。

まず最初に、「冬季うつ病」という言葉自体は、国際的な精神医学の二大診断基準である米国精神医学会(APA)のDSM-5と世界保健機関(WHO)のICD10のいずれでも存在しない病名だということです。
例えばDSM-5では、それをうつ病の中の「季節的パターン」を持った「季節型」とし、冬とは特定していません。
この「季節的パターン」を持った気分変調を、1984年に米国の精神医学者ノーマン・ローゼンタールが「季節性気分障害」(Seasonal Affective Disorder [SAD])」と命名したといわれています。
彼は南アフリカ生まれで、後に米国北西部に移住していますが、その中で彼自身が気候の変化による気分や行動の変化に気付き、季節の変化が気分に及ぼす影響について関心を持ち研究に至った、とのことです。

つまり「季節性気分障害」という概念は、季節が気分に影響するというもので、必ずしも冬だけを指していません。
春でも夏でも起きうるというものです。
そして「冬季うつ病」は、この「季節性気分障害」の一つという位置づけということです。

注:以下の医学的情報は、米国病院ランキングで常時トップにランクされているメイヨークリニック(Mayo Clinic)の情報に準拠。

「冬季うつ病」の症状の特徴と診断基準

「冬季うつ病」もうつ病の一種なので、その症状は一般のうつ病と同じといえますが、ただし特徴的な症状も挙げられています。例えば以下のものです。

イライラ感
疲労感/エネルギーの低下
過眠
炭水化物を多く含む食品を非常に食べたくなる
体重の増加

「冬季うつ病」の診断基準ですが、前述のDSM-5では以下のようになっています。
1. うつ状態が毎年特定の季節に始まり、特定の季節で治まる。
2. 以上の状態が過去2年間続いている。

つまり、通常のうつと違って「季節的要因」がはっきりしていること、また一年だけの症状では確定的な診断には至らない、ということです。

「冬季うつ病」の原因及び治療法と予防法

まだ決定的なことは分かっていないものの、以下の要因が関係していると考えられています。

1. 体内時計の変調
秋・冬の日照時間の減少が体内時計を変調させ、うつの気分をもたらす。
2. セロトニンのレベルの減少
日照時間の減少が、脳内の化学物質(神経伝達物質)の一つで気分に影響するセロトニンを減少させ、それがうつを引き起こす。
3. メラトニンのレベルの変調
季節の変化が、睡眠や気分に関係するホルモンであるメラトニンのバランスを乱す。

「冬季うつ病」の治療法ですが、これも基本的には一般のうつ病の治療と同じといえます。
つまり薬物療法(抗うつ薬)と心理療法(カウンセリング)です。
ただし、「冬季うつ病」特有の治療法が一つあります。
それは「光療法(Light therapy)」です。
これは簡単に言えば、非常に明るい光源の下で一定時間過ごすもので、不足する日光を補うというものです。

次に「冬季うつ病」の予防ですが、メイヨークリニックによれば、知られている予防法はない、とのことです。
ただ、症状が出る秋や冬の前に早めに治療を始めると悪化を防げる可能性がある、と述べています。

「冬季うつ病」に対する私の個人的体験・意見

実は、私は一度「冬季うつ病」と診断されたことがあります。
それは私が米国ウイスコンシン大学大学院に留学していた1996年の冬です。
その年は何十年来の寒波で気温が零下20度以下に下がり、冬休みにアパートに閉じこもっていました。
そしたら気分が落ち込み、大学の診療所に行くと「うつ病(季節性気分障害)」と診断され、抗うつ薬と光療法及びカウンセリングの治療を受けました。
しかし春先になっても気分がよくならず、結局夏過ぎには大学を休学して日本に帰国しました(なお、その後復学して卒業しましたが)。
この経験から「季節性気分障害」の確定診断は意外と難しいのでは、と感じました。

また、冬に気分が落ち込むなど心身の機能が低下するのは、動物が冬眠するのと同じで、気候の厳しい冬に対応するため進化の過程で身につけた一種の「適応機制」といえます。
したがって著しい障害が出れば治療するのは当然ですが、そうでなければその状態をある意味必然としてありのままに受け止めることも必要ではないか、と思います。

(村田 晃/心理学博士・臨床心理士)

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