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賃貸アパート増加の背景と問題点について

JIJICO / 2017年8月12日 8時30分

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賃貸アパート増加の背景と問題点について


過去最高を続けている貸家建築向け融資

今回のコラムでは、「バブル」とまで懸念される、局所的に増加している相続対策貸家建築について、注目すべきポイントをひも解いてみたいと思います。

不動産向け貸出し残高がここ10年伸び続け、中でも2015年相続税改正前後から、相続税対策としての借入による貸家建築が伸びています。日銀によりますと、その融資残高は2016年12月末に22兆1668億円と過去最高を更新しました。

背景として、先祖からの土地を継承したいという「思い入れ」、相続税改正、低金利、路線価上昇などの「経済状況」、サラリーマンなどの「不動産投資ブーム」も重なり、担保も取れ効率の良い個人融資先として、地方金融機関を中心にアパートローンを増加させたことも要因として考えられます。

しかし、今年に入り1〜3月期融資額は対前年同期比0.2%の減少と頭打ち感が出ています。それは、金融庁の地方銀行に対するアパートローン実態調査の開始や、日銀2017年度考査方針の「不動産業向け以外の不動産関連融資のリスク管理も考査対象」などが理由として挙げられます。これからも、過度な融資は押さえられ、しばらく対前年比減少傾向が続く可能性が高いと考えられます。

これからのアパートローンは自己資金比率を求めることや、人口構成から融資エリアを選定するなど、一定の歯止めがかかってきているようです。まして、土地取得から上物費用までの投資案件的なアパート融資はかなりハードルが高くなりました。融資姿勢の変化もあり、報道、経済紙でも貸家バブルなどを特集した記事が多くなってきている時点で、現場は既に変曲点を迎えている模様です。

サブリースが社会問題に

ここで、貸家建築による相続税対策スキームの中でぼやけてしまっている視点は賃貸需要です。当たり前ですが、将来の家賃収入、メンテコストは仮定でしかありません。2年毎の家賃改定の可能性もあるサブリースを利用しても、緩衝材的な役割がありますが、競合力がつき経営が安定するわけではありません。

いわゆるサブリースの社会的問題に関し、国土交通省は2016年9月にその対策として「賃貸住宅管理業者登録制度」を改定しました。借上げ契約において、資格者による将来賃料変動の説明、重要事項の書面交付などを義務化し、業者による消費者との情報格差を利用したセールスを是正する目的です。

しかし、そもそも制度に登録するか否かは任意となっており、業者の裁量に任されています。事務量増加、規定人員確保などコストアップを嫌う管理業者が多いのか、登録業者は平成27年時点で3,700者余りと、賃貸管理業者数推計の1割強でしかありません。サブリース利用を検討されているオーナーは、最低でも登録管理業者か否か確認する必要がありそうです。

賃貸経営でも最重要ポイントは立地

賃貸経営でも当然ながら最重要ポイントは立地であると思います。2000年都市計画法改正による規制緩和から逆行する政策である「立地適正化計画制度」(コンパクトシティ化)が2014年に制度化されました。人口減少、高齢化を背景に地方都市から、現時点で348の自治体で制度の取組みがなされています。

その居住誘導区域の指定事例は、車社会である地方都市でさえも徒歩圏にシフトし、駅から500m~1㎞以内、バス停(運行本数70本/日以上)から300m以内、人口密度目標30人~60人/haなどとなっています。

さらに、本年度に国交省にて「都市スポンジ化対策中間とりまとめ」が行われました。インフラ有効利用も兼ね、既成市街地において一定規模の人口密度を維持する政策です。私権が強い日本においても遅ればせながら「都市をマネジメントする」発想が具体化しそうです。

今後、都市圏郊外も地方化していきますので、貸家建築にあたって「将来でも適地になり得るのか」の判断が最重要となります。勇気がいりますが、場合により先祖代々の資産の組換えも選択肢に入れる必要があるかもしれません。

建築時の建物スペックも重要な要素

貸家適地問題をクリアする立地であっても、新築プレミアムは数年で無くなってしまいます。将来の競合力をつけるには建築時の建物スペックが重要となります。
建築時や取得時の利回り重視で、最低限である建築基準法を満たすだけの低予算スペックでは、将来の空室対策は家賃値下げとなってしまいます。後の機能向上がコスト、施工的にも難しい建物スペック(耐震、燃費、床面積)について、ニーズを先取りした先行投資の判断が必要です。

日本では、自動車や家電も燃費を気にしながら商品を選ぶことは、当たり前になってきました。自動車よりエネルギー消費量が多い住まいも、燃費の視点が差別化要素になることは確実です。特に、2020年建築物省エネ性能適判義務化以降の基準強化も見越したスペックにしませんと、新基準時点で型落ちとなり競合力が低下してしまいます。貸家においても、建築物省エネラベリング制度のBELS★5取得をめざす必要があるかもしれません。

欧米では、「家賃」と「家の燃費性能」がポータルサイトに掲示されています。「よい燃費性能は家賃の値下げと同じ」という見方です。また、欧州では年間住宅エネルギーコストが3%ずつ上昇するという設定の下に省エネ改修収支が見積もられ、さらに健康面、医療費、燃料費の国外支出削減でも社会的ベネフィットが得られるとして、賃貸住宅でも省エネ改修が進められています。この点においても日本は確実に周回遅れとなっています。

貸家業はサービス業化へ

さらに貸家業はサービス業化してきています。差別化し競合力をつけるには、マーケティング力やオペレーション力が問われる時代になってきました。貸家業はノンオペで管理は業者にお任せの「ほったらかし投資」で済む時代ではありません。東京オリンピックの年以降には、住宅需要と直接リンクする世帯数の減少が確実です。

貸家経営において、建築時オーナー収支の最大化や建物スペック固定化による建築業者利益の最大化など、供給側の論理もさることながら、需要側の論理(安全、安心、快適)をどれだけ取り入れられているかが、将来価値を上げ、空室リスク対策になると思われます。

今後、貸家増加の機会となりそうな2022年の生産緑地解除問題も控えていますが、オーナー自身が将来の入居者となって建築業者、設計事務所へリクエストする視点、また良きパートナーして継続したつき合いができる業者選定が最重要なのかもしれません。

(屋形 武史/住宅コンサルタント)

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