セカンドレイプはなぜ起きる?被害者を守るためには
JIJICO / 2017年9月27日 7時30分
セカンドレイプはなぜ起きる?被害者を守るためには
性暴力の静かな被害
平成27年犯罪白書によれば、強姦が公に認知された件数は1,167件と減少傾向にあります。しかし一方、平成24年犯罪白書の調査によれば、過去5年の被害申告率をみると、性的事件については届出を出さなかったのが74.1%、被害届を出した人の割合は18.5%となっています。およそ5人に1人しか被害届を出さないというわけです。
なぜ、被害者は沈黙するのでしょうか。
被害者の性を問わず、性暴力はその人の尊厳を踏みにじる行為であり、「魂の殺人」とも呼ばれる重大な犯罪です。さらに、加害者からの性暴力自体だけでなく、被害者を苦しませる「セカンドレイプ」という被害が存在します。
セカンドレイプとは、第三者からの何気ない発言、励ましや気遣いの中で、「性暴力を受ける側にも落ち度があった」「どうして抵抗しなかったのだ」「いつまでくよくよ悩んでいるのだ」などと非難されたり、事件について振り返るたびに性暴力のいまわしい記憶を呼び起こされることで、さらなる社会的・心理的ダメージを負うことを指します。
被害者は、たとえ性暴力の場から物理的には逃れることができたとしても、こうした心理的ダメージによる苦しみを事件後も抱え続けているのです。
そうした中で、もし被害届を出そうとすれば、当時のことを警察に話さなければならなくなります。被害者からすれば、殺されてしまうかもしれない、何をされるかわからないという中で起きた人生で一番忘れたい出来事を、何度も赤裸々に語らなければならないというのは、本当に酷なことであり、結果的には大きな心理的ダメージを受けてしまうことも少なくありません。
また、世間で考えられる被害者像、加害者像のイメージがあるために、被害を言い出せばメディアで騒がれたり、より多くの人たちから「被害者にもなんらかの落ち度があったのではないか」と責められるかもしれないと怯えてしまう気持ちもあるでしょう。その結果、被害者は自身を守るために沈黙せざるを得なくなります。
意外な加害者像と犯行動機
皆さんは性犯罪の加害者像について、ゆきずりで、挑発的な格好をした被害者を見た若者が性欲にかきたてられて、突発的に犯行に及んだと思われている方もおられるかもしれません。
平成27年犯罪白書のデータによると、強姦で50%弱、強制わいせつでも約37%において、20代までの年齢の加害者が検挙されています。しかし、一方で65歳以上の加害者が増加しているのも、ここ最近の傾向です。そして、意外に思われるかもしれませんが、強姦の50%弱が住宅内で行われているのです。
そして、ここ最近の傾向として被害者と加害者とが面識があるという割合が高くなり、平成26年では45.1%が面識あり、5.8%が親族という、痛ましい状況となっています。
また、かつて科警研が加害者へのインタビューを行ったところ、外見上挑発的だったことを動機にあげた人は少数で、むしろ「おとなしそうだったから」と被害が表に出にくそうな相手をターゲットとしていることがわかったそうです。
実際、私がご相談を受けた方は非常に生真面目で、おとなしい方ばかりでしたし、ご自分を責めてしまうことも度々ありました。性暴力が起こるのは被害者側にも落ち度があるというのは、ただの誤解だということがお分かりいただけるでしょう。
立ち上がる被害者が受けるセカンドレイプ
時には、被害直後はあまりにも辛くて何もできなかった方が、被害者が増えないようにと警察に足を運ぶこともあります。しかし、仮に被害から時間が経っていた場合、悲しいくらい証拠は失われています。身体の中にあった加害者の体液は自分の中からすっかりなくしたい、消え去って欲しいものであると同時に、重要な証拠でもあり、大きなジレンマを抱えることになります。
しかも、互いの供述しか証拠がなく、加害者側の言い分が異なると、警察は「認知」、つまり事件化するのに及び腰です。警察側からすれば、冤罪を防ぐためにも供述の信用性は吟味されるべきであり、客観的証拠が必要になるわけです。認知するには供述の信用性を吟味するために、同行している方が痛々しく感じるほど具体的にそのときの状況を説明しなければなりませんし、再現実験もしなければなりません。こうした一連の出来事によって、被害者は心理的なダメージを負うことになります。
また、加害者が権力者や有名人、重要なポストを担う人である場合、その人間性を問う意味でマスコミにおいて被害を告発する被害者もいます。
インターネットには一次的には匿名性があるので気軽にいろんなことを書く人がいますし、マスコミも権力者側からリークされた情報を掲載する場合もあるでしょう。つまり、被害の有無が公の場にさらされてしまうこととなります。これはものすごくストレスのかかる出来事でしょう。加害者だけでなく、被害者まで社会的なダメージを受けることもありえます。
大切な支援のネットワーク
このようなセカンドレイプを防ぐためにも、また、そもそもの性暴力をなくすためにも、適切な被害者支援のネットワークが必要です。そして児童虐待の司法面接のように、暴力を受けたことを語る機会を、安全な場所で、話す必要がある回数をできるだけ少なくし、カウンセリングでフォローする体制が必要になります。
私がお受けしている性暴力の被害の事件も、同級生や元彼など、面識のある人が加害者であることは少なくありませんが、共通するのは、被害者が身も心もボロボロになって、加害者と一緒にいた社会から脱出する一方で、加害者は元いた社会に居続けるという状況です。被害者は加害者の顔は二度と見たくないことが多いですから、自分と加害者がいたコミュニティから逃げ出さざるを得なくなることもあり、心のよりどころや居場所を失ったままになっていることも多くあります。
もし、周囲の人にそのような悩みを打ち明けられたら、皆さんは「あなたは決して悪くない、よく話してくれた」と話し、なるべく早く、性暴力被害のサポートをする婦人科の先生や弁護士、また性暴力被害支援のNPO等につなげるようにしましょう。
(白木 麗弥/弁護士)
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