働き方改革で規制される残業、必要なのは指(小手先)ではなく背骨
JIJICO / 2018年9月6日 7時30分
働き方改革で規制される残業、必要なのは指(小手先)ではなく背骨
働き方改革法案で残業の上限・罰則規定が設けられた
働き方改革関連法案が成立しました。今回は、このうち大手広告代理店の新人女性社員の過労自殺で昨年問題になった長時間残業の規制強化について考えます。
現状の残業の規定では、原則として残業はできないことになっていて、事業主が残業させる場合でも、36協定(労働基準法36条に規定されている残業時間に関する労使協定)を締結した上で、月45時間、1年間360時間が残業時間(時間外労働時間)の限度とされています。ところが、36協定に「やむをえない場合は、上限を超えて残業させるができる」という特別条項を設けることができ、事実上、法律上の上限なく残業させる事ができる仕組みになっています。
そこで、今回の働き方改革法案では、この労働基準法も改正され、36協定で「特別条項」を設ける場合でも、1月の上限を100時間、年間上限を720時間とされました。さらに、罰則も設けられました。(6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金)
このところの人手不足で困っている中小企業の社長さんたちは、「何とか残業で仕事を回してきたのに、残業なしではとても注文をこなせない。利益どころか給料も払えなくなってしまう・・・。」とで頭を抱えていることでしょう。
給料のもととなる売上と粗利を労働生産性の観点で考える
ご存知のとおり、給料は粗利の中から支払われます。ここから先は、売上と粗利の関係を考えましょう。粗利≒付加価値と単純化して話を進めます。
従業員が働いた量(給料)に対して会社が生み出した付加価値の大きさの割合を労働生産性といいます。この割合が大きいほど、生産性が高く給料を多く支払う余裕があり、効率的という事になります。
図-1 労働生産性の累積分布
出典:平成28年度 中小企業白書
この理由は、先ほどの算式に有形固定資産に登場いただき、次のように書き換えると見えてきます。
このように、労働生産性は、設備生産性(前者)と労働装備率(後者)に分解できます。
たとえば、工場をイメージしていただけるとわかるとおもいますが、製品を作るにはほとんどの場合機械装置が必要です。この式は生産性には、労働者と機械装置の両方の働き具合がかかわっているということを意味していて、大企業は機械装置を多く使うことができるので生産性が高く、反対に中小企業は機械装置をそろえることができないので生産性が低いという結果になりやすいということが言えます。
図‐1の左、製造業ではそのような結果が顕著に表れていますが、右側の非製造業では、大企業と中小企業との差がそれほどありません。これも非製造業では(サービス業をイメージいただければわかりますが)機械装置を使う度合いが製造業ほど多くないので生産性に差が出にくいということを現わしています。
現在、特に中小企業の社長さんたちは、人手不足を残業で何とかしのいでいますが、人口が減少局面に入った我が国では、ますます、働き手は減り、残業をしてくれる従業員自体を雇えない事態になっているのです。
そうなると、少ない労働量で多くの売上を上げ、生産性を高めなければならないという結論に行き着きます。
全要素生産性(TFP)に中小企業にとってのヒントがある
ここで、経済全体へと視界を広げてみましょう。
付加価値を日本中全部足し合わせたものが、我が国の経済の大きさを表すGDP(国内総生産)ですが、その内訳である有形固定資産と労働力の増減分を足し合わせても、GDP全体の増減には一致しないのです。この差は(ざっくり言いますが)全要素生産性(TFP)と言われ、TFPは個々の会社の財務諸表から会社ごとの生産性の増減を足し合わせた以外の、数字では捉えきれないもの(「質」)があるということを示しています。
経営資源、ヒト、モノ、カネが限られている中小企業にとってここにヒントがあるのではないでしょうか。
労働基準法は、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。」(第32条)と規定しています。労働者は働かされるもの、雇用者(使用者)(は労働力を時間で買うものという考えが基本にあることがわかると思います。この考えの大本は、あのマルクスの労働価値説だと思います。経済的側面はもちろん重要なのですが、私達に人間にとっての労働の意味を考えてみたいと思います。
現代、私たちは機械や装置という道具を使って製品をつくります(労働)が、これをずーっとさかのぼると、私たちの祖先は、石器や土器など様々な道具をつかって獲物を捕まえ、畑を耕していました。この頃の私たちの祖先は、目の前のもののためではなく将来の獲物、秋の収穫のために道具を作り、働くことを考えるようになりました。
つまり、時間という概念が生まれ、出来事の間にある因果関係を普遍的、抽象的に理解して、その結果を求めて行動するようになったのです。良くも悪くも、人間は人間になりました。働くということは、私達を人間にしてくれた出来事だったのです。
これが「数字では捉えきれないもの」(=労働の質)の正体なのです。労働人口が減少し続ける時代を迎えて、労働の質によって生産性を上げる事は必須です。研修、人事制度、給料と考えられる対応策はいろいろあるのだろうと思いますが、小手先の対策ではなく、施策を貫くしっかりした背骨(哲学)が必要なのではないでしょうか。
(岡部 眞明/経営コンサルタント)
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