「こども六法」が話題 いじめは法律の力で対処できるのか
JIJICO / 2019年11月5日 7時0分
「こども六法」が話題 いじめは法律の力で対処できるのか
いじめの解決に役立つようにと、子ども向けに法律をわかりやすく解説した「こども六法」(山崎聡一郎著、弘文堂刊)が、ベストセラーとなっています。また、文部科学省は、来年度を目標に、いじめや虐待などの問題に対して、学校側に法的なアドバイスを行う専門の弁護士「スクールロイヤー」を、全国に約300人配置すると発表。対象は異なるものの、法律を学校問題の解決にもっと役立てようという動きが広がっています。
社会的に大きな問題となっている学校でのいじめ。大切な子どもがいじめにあい、苦しむ姿は、親として本当につらいことで、学校に相談したり、情報を集めたり、あらゆる手段をとるはずです。子どもを守る選択肢の一つとして、法律や法的対処法について知っておきませんか。弁護士の片島由賀さんに聞きました。
「こども六法」などのツールで法律を教えることによりいじめを予防
Q:いじめ問題を解決できる法律は、大まかにどのようなものがありますか。 ------------ いじめをめぐる法律は、次の3つです。 ①「いじめ防止対策推進法」は、いじめが起こった場合、学校が具体的にどう対処する必要があるのかなどを定めています。
②「民法」は、いじめによるけが、心理的苦痛により学校に通えなくなった、などの被害を「損害」として、賠償請求をすることができます。
③「刑法」は、暴行を受けた、脅されて金銭を取られた、などの被害を「犯罪」として、加害者に責任を問うことができます。
Q:法律で扱うことができる「いじめ」に、定義はあるのでしょうか ------------ いじめ防止対策推進法の第2条では、「子どもが、同じ学校に通うなど、人間関係のある子どもからの行為で、心理的・物理的に影響があるものにより、心理的な苦痛を感じているもの」と定義されています。
いじめる側がたとえ「ふざけただけ」という意識でも、いじめられた側が「嫌だ」と思えば、いじめになり得ます。また、「インターネットを通じて行われるものを含む」とも、明記されています。
Q:いじめの被害にあった場合、どのような法的対処法が考えられるのでしょう ------------ 保護者から連絡を受けた際に、学校がとる対応法を規定しているのが、いじめ防止対策推進法です。
事実の確認や報告はもちろん、「加害者と別の場所で学習できるようにするなどの配慮をとる」「傷害など犯罪の可能性があれば、警察と連携する」「長期の欠席や命の危険があれば、広くアンケート調査などを行い被害者・保護者に報告する」など具体的な方法が決められています。
そのほか、心理的苦痛により、学校に通えなくなった、自殺に追い込まれたケースなどでは、民法により、学校やいじめ加害者・その保護者への損害賠償請求を行うことができます。
いじめ防止推進対策法のきっかけとなった、2011年に起きた滋賀県大津市のいじめによる自殺事件では、今年(2019年)2月の民事裁判で「自殺はいじめと因果関係がある」と判決が出されました。また、暴行や恐喝などで肉体的・金銭的な被害を受けたケースでは、刑法により、いじめ加害者への刑事責任を追及することができます。
Q:法的手段をとる場合に備え、証拠を残しておくべきですか ------------ 被害を裏付けるものは、形として残しておきましょう。暴行を受けたら、傷痕を写真に残し、病院に行った場合は診断書をもらうといいですね。被害を記した日記や、保護者から学校にあてて書いた連絡ノートなども有効です。
最近相談が増えている、LINEにおけるいじめ「LINEいじめ」では、トークルームごと削除できるので注意が必要です。
「人格否定となるような文言が送られてきた」「からかわれている動画などをグループで共有された」などの場合は、画面やデータを保存してください。SNS上のいじめは、親や学校など、外部からは見えにくく、対処が難しくなっています。
Q:いきなり法律事務所に行くのは気がひける場合も。相談はどの段階からするのがいいのですか? ------------ 「元通り学校に通いたい」「転校を決めたけど、泣き寝入りは嫌」など、今後どうしたいかは、家庭によってさまざま。解決への道筋を考える上で、早いうちに相談することは大切です。実際は、「学校に相談したが、解決できない」という状況で来られるケースが多いようです。
電話での無料相談窓口も近年増えており、「24時間子供SOSダイヤル」(文部科学省)、「子どもの人権110番」(法務省)などがあります。相談の入り口として利用してください。
Q:「こども六法」や「スクールロイヤー」など、法律が学校問題で存在感を高めているようです。いじめ問題において、期待できることはありますか ------------ ある学校の授業で、8割以上の子どもが答えたそうですが、「いじめられる側にも非がある」という考え方が世間一般に根強くあります。そのような意識を変えるという点で、「こども六法」などをツールに、子どものうちから法律をルールの一つとして教えることは、いじめの予防につながると思います。
学校の相談相手となる「スクールロイヤー」は、子どもや保護者が直接関わることはありませんが、法にのっとり対応を助言するので、情報の開示などがスムーズになる可能性が期待されます。いずれも、法律が身近になるきっかけになればいいですね。
(片島 由賀/弁護士)
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