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イトーヨーカドー、パルコなど元日の計画休業を発表。働き方改革による業績への影響は?

JIJICO / 2019年12月15日 7時30分

イトーヨーカドー、パルコなど元日の計画休業を発表。働き方改革による業績への影響は?

イトーヨーカドー、パルコなど元日の計画休業を発表。働き方改革による業績への影響は?

働き方改革の一環で、年々元日の計画休業を実施する企業が増えています。イトーヨーカドーやパルコなども2020年より実施を発表しています。年始商戦による業績への影響はないのでしょうか?

働き方改革と元日休業、過重労働の問題がその背景に

百貨店などで元日休業の動きが広がっている大きな理由として、「働き方改革」の推進が挙げられます。

2019年4月より働き方改革関連法案と呼ばれる制度がスタートし、年間5日間の有給休暇の取得が義務付けられました。また2020年4月からは中小企業にも適用されます。働く人の7割は中小企業と言われているので、本格的に働き方改革の影響が現れるのは来年度以降と考えられます。

しかしながら、元日休業の動きは、今回の働き方改革関連法案以外の要因ですでに始まっていました。そのため、改革法案の影響だけに注目すると本質を見誤る危険があります。

百貨店の売り場には直営店舗とテナントがあり、売り場の多くはテナントで、運営主体は百貨店とは異なる企業です。テナント側は百貨店側に対し、大晦日や元日を含む休館日の増加を要望することが多く、休日が少ないことや閉店時間が遅いことが出店を見合わせる理由になることも少なくありません。

電通違法残業事件で就活生や保護者の意識に変化

ではなぜ、テナント側は休館日の増加などを求めるのでしょうか。

テナント企業、特にアパレル系・サービス系企業の正社員スタッフの多くは若年層の女性ですが、他の産業以上に人材の確保に苦労しています。

百貨店などにおいては、忙しい土日は休みが取りくい。営業時間が長い上に閉店後の作業が多いため退勤時間が遅くなる。スタッフの不足によっては休日を十分に取れない。

上記のような背景から、アパレル系・サービス系企業の多くが違法残業・出勤となりがちで、スタッフはプライベートな時間を確保できず、結婚出産に伴い退職する人も少なくありませんでした。

そして、このビジネスモデルを支えていたのは、毎年入社する多くの新社会人や学生アルバイトでしたが、その流れはある事件をきっかけに持続不可能なものとなりました。

その事件とは「働き方改革」のきっかけでもある「電通違法残業事件(2015年)」です。この事件以降、就活学生の保護者の意識も変わりました。エントリー対象の企業がブラック企業ではないか、福利厚生やコンプライアンスがしっかりしているかを注意深く見ています。それは男性よりも女性、大卒よりも短大・高校卒の学生への影響が大きいように感じます。

私が以前参画していた小売企業でも、内定者の保護者に対する説得にしばしば苦労する事例は多くありました。採用母数である新社会人が減少する中、本人だけでなく、保護者が納得をする福利厚生やコンプライアンスが求められているのが採用現場の現実です。

気になる業績への影響、元日営業は収益に貢献していたのかが問題

働き方改革の推進、福利厚生やコンプライアンスの整備が求められる中、気になるのは業績への影響です。特に今年は消費税の増税もあり、小売現場にとっては逆風の年となりました。そこに元日休業が加わるとなると、売上への影響が大きいように思われます。しかし、そもそも元日営業は、売上増加に十分な効果があったのかどうかを考える必要があります。 百貨店は、1998年には全国売上高が9兆円を超えていましたが、元日営業が増加傾向にあった2000年代を通して、百貨店の売上高は減少の一途をたどっています。つまり、元日営業は収益に貢献していなかったということになります。

であれば、業績への影響を心配する必要はほとんどないでしょう。

元日営業は、コンビニエンスストアが90年代に始めたことがきっかけと言われています。スーパー業態でも1996年にダイエーとイオンが始めたものですが、他の施設が休みで、が元日にやることがないという状況の中でチャレンジしたものです。他社が行っていないことを行うことに価値があったので、出遅れた百貨店業界に勝ち目はなかったと言えます。

元日営業が始まる前の正月といえば、親戚へのあいさつ回り以外やることがなかったものです。どこの商業施設も開いていない。どこか開いていてくれれば。そんなニーズを捉えたことに意義があるのであり、漫然と続けるメリットはないと言っていいでしょう。

10年後には、元日営業について「人員整理や採用抑制の関係で販売現場での採用が比較的容易であった一時期(90年代~2000年代)に限った現象」といった総括をされることでしょう。

働く側は福利厚生やコンプライアンスを重視する流れ

上述した通り、2015年の電通違法残業事件以降、新卒社会人の就職において福利厚生やコンプライアンスを、より重視する流れが強まっています。

女性社員だけでなく、男性社員についても転勤がないか、結婚・子育てはしやすいかという点を意識しています。 ある人材サービス会社が行った仕事観に関する調査によると、平成30年の新卒者が会社選びで重視しているのは「福利厚生の充実」「やりたい仕事ができる」「ワークライフバランスの実現」でした。

もちろん、被雇用者の要望をすべて叶える経営などは不可能です。企業としては「どのようなスキルや学歴の人材か」だけではなく、どのような働き方を求める人材を採用するかを考える必要があります。

終身雇用が崩れた中、自らのキャリア形成や起業などに対して「プラスとなる職場」と言えるかどうかが人材を引き寄せるカギとなります。副業についてもマッチングサービスが多く、一般的になりつつあります。

では、どのような働き方を希望する人が多いのでしょうか。そのニーズにマッチした人事制度をどのように構築すべきでしょうか。

それについては、これまでの企業の採用戦略の原則と同じです。活躍する人材の経歴を元に募集要項を作るように、社内で活躍する人材の働き方への意識や希望をくみ取る活動が経営層に求められます。まさにES(従業員満足)なくしてCS(顧客満足)なしです。

採用意欲の高い企業では柔軟な働き方が広がる可能性も

転職の可能性が高い人材が多い職場においては、採用意欲の高い企業を中心に柔軟な働き方が広がるでしょう。

一方で企業側の力が強い業界の場合、公的制度の役割はまだまだ大きいと考えます。今回の関連法案でも、有給休暇の取得義務は5日間に限られています。さらなる有給休暇の取得を進めるためには、未消化日数分の買取義務などを企業側に課すことで有休の計画的な取得を推進していく必要があります。

違法労働や少ない有休利用によって成り立ってきた現場は、改善か廃業を余儀なくされるでしょう。事業を続けるためには、経営戦略の根本的な見直しが求められています。

(鈴木 崇史/中小企業診断士・経営革新等認定支援機関スモールM&Aアドバイザー)

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