新型コロナウイルス感染拡大を理由に解雇は不当か。休業の場合は?
JIJICO / 2020年3月26日 7時30分
新型コロナウイルス感染拡大を理由に解雇は不当か。休業の場合は?
新型コロナウイルス感染拡大の収束が見えない中、その影響は雇用問題にも広がっています。報道によると、埼玉県のある製造会社が、中国人技能実習生の女性に対して、新型コロナウイルス感染拡大を理由に2月付の退職を通知。また、観光客の減少から、北海道の観光バス会社がバス運転手を含む正社員を解雇といった報道もあり、今後、全国各地でこのような動きが広がる可能性があります。
政府は、新型コロナウイルスの影響で経営が悪化した企業に対し、雇用調整助成金など支援策を打ち出しています。コロナウイルス感染拡大を理由に解雇や休業を通知された場合、不当と言えるのでしょうか。2018年のリーマンショック時に活用された雇用調整助成金とは。社会保険労務士の神野沙樹さんに聞きました。
経営不振の場合も、人員削減の合理性など4つの要件を満たさなければ不当解雇の可能性も。休業の場合は、法的に休業手当の支給が義務付けられている
Q:新型コロナウイルス感染拡大を理由に、労働者に解雇を通知した場合、不当解雇と言えますか?働く側がまずできることは? -------- 労働契約法16条で、解雇について「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認めらない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。「新型コロナウイルス感染拡大」だけでは、合理的な理由とはなりません。
新型コロナウイルス感染拡大による経営不振を理由に、人員を解雇する「整理解雇」では、これまでの裁判例などをふまえると、次の4つの要件を満たす必要があり、満たしていなければ、不当解雇と判断される可能性が高くなります。
①人員削減の必要性 ②解雇を回避するための企業努力を行ったか ③解雇する人員の選定理由の合理性 ④従業員に対して解雇理由の説明や話し合いの場を設けたか
①では、「売上が大幅に減少していない」「借入金に余裕がある」「国の支援策などを利用できる余地がある」「自分がリストラされた後も役員報酬は減額されていない」などの場合は不当となる可能性が高いです。また、②の企業努力とは、「希望退職を募る」「部署間の配置転換などで人員調整を行う」などの対応がされたかどうかがポイントとなります。
解雇通知を受け、①~④を一つでも満たしていないと考えられる場合は、まず会社に説明を求め、書面での回答を得ましょう。また、各都道府県の労働局では、新型コロナウイルスに関する相談窓口を設けていますので、一人で悩まず専門家に相談してください。
Q:新型コロナウイルス感染拡大の影響が懸念される業界は、具体的にどういった業界が考えられますか? -------- インバウンド需要の減少により、直接的な打撃を受けているのが観光業です。旅館やホテルなど宿泊関連のほか、お土産店などにも影響が出ています。国内での自粛ムードは、外食業界や映画館、カラオケなど娯楽業界にも影を落としています。
また、中国その他諸外国から資材を調達、欧州の工場で生産など、海外とつながっている企業も多く、今後も事業に支障をきたすことが懸念されます。さらに、従業員から感染者が出た場合の影響も大いにあります。例えば、日立製作所では、水戸事業所で働く従業員の一人が感染し、事業所内約1000人に自宅待機を指示。コンビニや外食店では感染者が出た店舗を一時休業など、各社とも対応を行っています。
Q:国による事業者への雇用対策の一つ、「雇用調整助成金」とはどのようなものですか? -------- 景気の変動などで業績が悪化した際に、休業や教育訓練、出向などの雇用調整を実施し、従業員の雇用を維持するための手当の一部を国が助成する制度です。
同制度は、2008年のリーマンショックの際に多くの企業に活用されました。今回のコロナの感染拡大は、2月末から突然事態が進んだため、企業に、教育訓練や出向などを検討する余裕はなく、休業の措置がほとんどだと考えられます。
労働基準法第26条に、使用者の責任で休業させた場合に、平均賃金の6割を休業手当として支給することと規定されています。雇用調整助成金では、このうち、大企業では2分の1、中小企業では3分の2が国から助成されます(上限あり)。
通常は事前の計画申請が必要ですが、新型コロナウイルスによる特例として計画申請がなくても認められます。また、感染拡大により緊急事態宣言を出した北海道の事業者については、助成率が拡充されています。
ただ、全額が助成されるわけではないので、個人経営や資金力のない事業者は対応できない可能性もあります。
Q:非正規やフリーランスなど、個人を対象にした支援策はありますか? -------- 政府は学校の臨時休校に伴い、仕事を休んだ保護者に対し、賃金を補償する助成制度を創設しています。企業は、保護者に支払った賃金補償額分(日額上限8330円)を助成金として受け取ることができます。
なおその際、企業は、従業員に通常の年次有給休暇とは別に、特別休暇を取得させることが条件となります。また、支給の対象は小学生以下の子どもの保護者で、中学生以上は対象外です。 業務委託を受けて働くフリーランスの人は、自ら申請すると1日当たり定額4100円が支給されます。
個人向け緊急小口資金などの特例では、休職しても助成金の対象にならない人や、失業した人がいる世帯などを対象に、最大で月20万円を無利子で貸し付けます。また、所得の減少が続く低所得の世帯は返済が免除されます。
Q.新型コロナウイルス感染拡大が収束する見通しが立たない中、解雇など雇用を見直す企業は今後増えるのでしょうか? -------- 年度末である3月末で「雇い止めをする企業が多いのでは」という声もありますが、2月に出された政府の自粛要請からひと月で、従業員の解雇を決定する企業はそれほど多くないと思います。
経営者は、今いる従業員の雇用をどうやって維持できるかをまず考えるはずです。それでも、どうしても持ちこたえられず、解雇を検討する際には、やはり非正規雇用で働く人が対象にされやすいでしょう。
また、解雇までいかなくても、経営不振を理由に自宅待機など休業を命じられる可能性もあります。発熱などの症状があり、感染が疑われるなどの理由でなければ、使用者(事業者)側の都合となり、休業手当を支払わなければなりません。
また、新卒、中途を問わず、今後の採用計画を見直す企業も多いでしょう。特に、新規事業の立ち上げに伴った採用であれば、事業計画自体をずらし、1~2年は様子を見ようという流れが自然です。これまでは、人員の確保が企業の課題で売り手市場でしたが、株価下落なども含め、先行きが不透明な今、いったんトーンダウンする可能性は否めません。
新型コロナウイルスの感染拡大が社会に与えた影響は深刻でマイナス面が大きいですが、企業の柔軟性や組織力が問われる機会が生まれたとも言えます。
ルールに縛られ、すぐに身動きがとれない企業がある一方で、時短やテレワークを活用するなどしなやかに対応できている企業もあります。いざという場面での「真の力」が明らかになった面もあったのではないでしょうか。例えば、働き方改革で推奨されながら、なかなか浸透しなかったテレワークも、今回、一気に進んだ印象があります。
今後、新型コロナウイルスの問題に限らず、少子高齢化や人手不足など、さまざまな問題に直面すると予測されます。それらへの対応力を養う、新たな契機ととらえる意識も必要なのではないでしょうか。
(神野 沙樹/社会保険労務士)
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