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自粛解除でも「家にこもりたい」 コロナでひきこもりに変化?及ぼす影響とは?

JIJICO / 2020年6月24日 7時30分

自粛解除でも「家にこもりたい」 コロナでひきこもりに変化?及ぼす影響とは?

自粛解除でも「家にこもりたい」 コロナでひきこもりに変化?及ぼす影響とは?

外出自粛が解除され、「やっと会社や学校に行ける」と喜ぶ人がいる一方で、「家にこもる生活が快適で、元の生活に戻りたくない」という人もいます。新型コロナウイルスによる自粛期間中は、「家にこもる」ことへの後ろめたさが和らいだという声も。厚生労働省によると、4月の自殺者数が、前年同月と比べ19.7%減少し、直近5年間で最大の減少幅となったといいます(「警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等」、6月10日公表)。

また、社会問題になっている「ひきこもり」の人の中にも、コロナを機に社会活動に目を向けるようになったケースがあるようです。新型コロナウイルスは世界中を恐怖に陥れていますが、自粛生活により気持ちが楽になった人も一部ではいるのかもしれません。自殺者数減少の要因やひきこもりの人への影響を、精神科医の鹿島直之さんに聞きました。

ひきこもりは、社会生活を拒絶している状態。コロナにより生活スタイルが変わっても、経済活動による競争社会は続くため、失業増なら、これまで以上に社会との接点を持つことが難しくなる

Q:4月の自殺者が前年に比べて約2割減少しました。どんな要因が考えられますか? -------- もともと、仕事や学校などの社会生活において、絶望的になるほど強いストレスを感じていた人が、突然の休業や休校によって、ストレスを回避できた可能性があるのではないでしょうか。新型コロナウイルスの感染予防のため、誰もが外出自粛を急に強いられたことによるストレスが話題になりましたが、一部の人にとっては、社会生活によるストレスの方がはるかに強かったのかもしれません。

ただ、会社や学校が再開される一方で、感染予防のために、非効率的な経済活動が求められ続け、企業の業績不振や倒産が目立ってきています。6月以降、失業など困難な状況に追い込まれる人の増加に伴い、自殺者が増える可能性は高いように思われます。

Q:家で過ごす生活が快適で、「自粛前の生活に戻りたくない」と感じる人がいるようです。そのまま「ひきこもり」になってしまう可能性はあるのでしょうか? -------- 「ひきこもり」とは、基本的に半年以上、多くは年単位で自宅にひきこもり、家族以外の人と接触することがない状態をいいます。程度の違いはありますが、何らかの理由により社会生活に困難を感じる人が、長期にわたって社会生活を拒絶する状態です。

その背景には、大きく3つあり、「①統合失調症、うつ病、不安障害などの精神疾患」「②発達障害」「③パーソナリティの問題」があります。ほとんどの場合では、学校や会社などの集団活動になじめないことをきっかけに自宅に引きこもり、社会的な働きかけを拒むようになります。

もともと社会生活を普通に送っていた人が、3カ月程度の自粛生活の影響で「家にこもるのが快適」と感じるのは、個人的な生活習慣上の嗜好です。「ひきこもり」になる可能性は薄いでしょう。

Q:ひきこもりの当事者は、家にこもり続けることに罪悪感があるといいます。多くの人が自宅にこもっていた自粛期間中は、「自分だけではない」と、少しは罪悪感が薄れるものですか? -------- 普段から社会的・経済的活動を拒否し、自宅にひきこもっている人は、主に同居する家族からの社会参加への圧力を感じています。多くのひきこもりの人が、一見普通に見えても、経済的自立を果たさず、社会的活動をしないことに罪悪感を抱いています。

今回の外出自粛は、たかだか3カ月程度のことで、新型コロナウイルス感染予防のための一時的な対策と位置づけられています。そのため、長期にわたってひきこもっている人の罪悪感が軽減されるとは考えにくいです。「家族にとってお荷物だ」と本人が感じている場合もあり、自粛により家族全員が家にいたことで、むしろ余計に精神的負担を感じたケースもあるでしょう。

Q:コロナをきっかけに、ひきこもりから脱したというケースもあるようです。危機的状況は、ひきこもりにどのような作用を及ぼしますか? -------- 当院に来られる患者さんの中には、コロナをきっかけに劇的に状態が改善したというケースはありません。「以前と同じひきこもり生活が続く」という人がほとんどだったように思います。むしろ、通所していた就労移行支援の事業所が休業を強いられ、社会復帰が遅れるという人はいました。

危機的な状況が、ひきこもりを脱するきっかけになったケースがあるならば、それは、ひきこもりの当事者自身に、社会参加を困難にするような精神症状が目立たず、さらにその危機的な状況を生かせるような「社会参加への欲求」がもともとあったということでしょう。

残念なことですが、そういった人はごく少数にとどまるように思います。ひきこもりとは長期にわたり社会参加をしない状態を指し、その心理や、ひきこもりに至った背景となっている精神疾患はさまざまなのです。

Q:「アフターコロナ」で、社会や人間関係は以前と同じには戻らないという意見もあります。ひきこもりなど、これまで社会生活に困難を感じていた人にとって、変化となり得るのでしょうか? -------- 現時点で、「アフターコロナ」が、どのような社会となるのかは不透明ですが、テレワークやオンライン授業などのメリットが見直され、仕事や授業を行う場所が、必ずしも会社や学校だけではないことは認識されたといえます。また、「家でゆっくり過ごすことの良さ」に気づいたという声もあるとのことです。

ただ、感染予防を目的に、過密な社会生活が見直されるといっても、経済活動は維持され、競争社会は続きます。経済活動に対する価値観が変わるまでには至っていません。むしろ、感染予防を前提に、効率の悪い経済活動が強いられるようになり、社会に生きる人たちの心の余裕を奪っているのではないでしょうか。

現在、もともと社会の中で普通に働いていた人でも、新型コロナウイルス蔓延の影響による失業で、社会活動の場が失われる状況が目立ってきています。社会活動から半ば疎外されているといえるひきこもりの人にとっては、社会とつながる機会をつくることがこれまで以上に難しくなるかもしれません。ひきこもりの人を取り巻く状況は、むしろ悪化するのではないかと懸念されます。

(鹿島 直之/精神科医)

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