繊細で共感力が高い「HSP」。敏感さは軽減できる?適職は? その魅力をいかして心穏やかに過ごす方法とは。
JIJICO / 2020年9月19日 7時30分
繊細で共感力が高い「HSP」。敏感さは軽減できる?適職は? その魅力をいかして心穏やかに過ごす方法とは。
「繊細で敏感な人」として、注目されている「HSP」とよばれる人々。近年、芸能人の告白などをきっかけに、その存在が広く知られることになりました。「相手の立場や顔色を気にしすぎて気疲れする」「人混みにいるとぐったりと疲れてしまう」という人は、もしかしたらHSPかもしれません。変化し続ける現代社会で、生きづらさを感じることもあるというHSPの人たち。HSPの特性と向き合い、その魅力をいかして生きる方法とは。臨床心理士の佐々木智城さんに聞きました。
高度な感受性を持ち、人の気持ちが「わかりすぎて辛い」のが悩み。細やかな優しさや物事の本質を見抜く性質から「迷っている人を安心させる力」を発揮することも
Q:HSPとはどのような人のことでしょうか。その性質は、遺伝などが影響しているのでしょうか? -------- HSPとは、アメリカの心理学者、エレイン・N・アーロン博士が提唱した「Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)」の頭文字を取ったもので「ひといちばい敏感な人」と訳されます。生まれつき高度な感受性を持つ人を表し、人口の15~20%、つまり5人に1人はHSPだといわれています。先天的な性質といわれますが、親が非HSPで子どもがHSP、あるいはその逆もあり、遺伝的な要素がどこまで影響するかは明らかになっていません。
脳内では、好き嫌いなど情動を処理する扁桃体、共感性に関わる島皮質、直感的思考を行う帯状回が活発で、神経が高ぶりやすく、不安や恐怖を感じやすいのが特徴です。ただ、あくまでも敏感という「気質」であり、病気ではないのです。
Q:具体的に、HSPの人にはどんな悩みがあるのでしょうか? -------- ひとくちにHSPといっても、敏感さの程度や対象は、その人の性格によりさまざまですが、アーロン博士によると、大きく4つの性質をもっているとされています。
【丁寧で深い処理をする】 何かの作品を見た時に、見た目だけではなく、製作者がどのような思いを持って作っていたかを追体験するなど、見えないところまで感じる力があります。
【刺激を受けやすい】 音や匂いなど五感から入ってくる刺激や人から言われていた言葉に強く反応が出ることがあります。相手のイライラした声を聞いて「何とかしないと」と思ってしまうこともあります。
【共感力が高い】 相手がイライラしていたり怒っているとすぐにわかります。本人以上に感情が湧き上がることがあり、本人が泣いていないのに自分が泣いてしまうこともあります。
【些細な刺激にも反応する】 他の人が気づかない匂いや音に気づいたり、人の表情や様子から体調が良くないことがわかったりします。また、職場で雰囲気がおかしいことに気付き、後から職員同士のトラブルがあったことを知ることもあります。
上記は一例ですが、なかには、五感を超えた感覚に敏感な人もいて、「この部屋は何だかイヤな感じがする」と不穏な空気を察知したり、「目を見るだけでその人の性質が何となくわかるので、怖くて人の目を見られない」といった悩みを抱えるケースもあります。
神経が絶えず休みなく働いているので、たとえ楽しい時間でも疲れてしまうのが特徴です。繊細ゆえにキャパオーバーになりやすく「自分は何て弱いんだ」と思い込むHSPの人が多いのですが、本人の努力不足などが原因ではなく、生まれ持った気質なのです。
Q:同僚や部下など、職場にHSPと思われる人がいた場合、どのように接すればいいでしょうか? -------- HSPの人は、置かれた環境によって、一般の人が思う以上に結果を出せないことがあります。人により程度はさまざまですが、コミュニケーションをとる上で、心がけたいポイントを挙げます。
◆声のトーンを抑えて、ゆっくりとしたペースで話しかける 大声や不機嫌な人が非常に苦手です。多くのHSPはパーソナルスペースが広いため、急に近づくと威圧感を感じるので「今からそっちで話したいんだけどいい?」などと声を掛けると、心の準備ができます。自分がイライラしているときは、心を落ち着けてから話しかけましょう。
◆指摘するときは、できるだけ否定的な言葉を避ける 些細なミスやちょっとした指摘に対しても、ふがいなさを感じ、自責の念にかられます。「こうしてくれると助かる」などと言い方を工夫し、「あなたがいて助かっている」といった肯定的な言葉で締めること。HSPの要素がある人や、本人が安心する人に伝えてもらうのも手。
◆ある程度本人の裁量に任せることで、作業効率が上がる 監視されたり細かい時間制限を設けたりすると、人一倍プレッシャーを感じ、作業能力に影響します。自分のペースで進められることで、ありのままの力を発揮し、スピードアップにつながる場合も。
◆結論がすぐに出ないことを責めず、悩んでいるときは時間を置く 人より受け取る情報量が多すぎて、問いかけに対し深く考え込み、思考停止することも。顔色の変化や声が出づらくなるなど、生理反応が出ることもあるので、悩んでいる様子なら「○分後に返事ちょうだい」などと伝え、少し時間をおくこと。せかされるとパニックになり、不本意な回答をしてしまうことがあります。
特別扱いする必要はありませんが、職場に理解者がいるだけで、HSPの人は落ち着いて業務に取り組むことができます。その特性を理解し尊重することは、個人の力を最大限に高める上で大切です。
Q:HSPの敏感さは軽減されることはないのでしょうか。何か自分で対処できることはありますか? -------- 置かれた環境や体調などによってずいぶん変わります。例えば、リモートワークに切り替わったことで、HSPの人からは「オンラインの情報のみに集中でき、自分のペースで休息がとれて業務がはかどる」「外部刺激が軽減され、緊張が少なくなった」と、プラス面を挙げる声が聞かれました。環境が変わったことにより、本来の力が発揮された例といえます。
また、自分と人との間に〝壁〟を設けると、心理的な境界線が生まれる効果があります。マスクの着用や、ストールで皮膚を守ることで、他者との境界線が生まれ、心の負荷が抑えられたという人もいます。
ほかにも、「ヨガやアロマで心身の緊張がほぐれて敏感さが軽減した」「食生活や睡眠を見直すことで体調がよくなり、ストレスへの抵抗力がついた」など、自分に合ったセルフケアで、敏感さをうまくコントロールしている例があります。
人疲れしやすいHSPですが、ゆったりと穏やかな性格の人や、本当に自分が信頼できる人からはエネルギーを得られることが多いです。
HSPだからずっと辛い状況が続くわけではなく、自分に合った方法でエネルギーを蓄えることができれば、日々の刺激を楽しむ余裕ができ、活力的に動くことができるのです。
Q:HSPの繊細さ、アンテナ力の高さは他にない魅力といえます。HSPの力をいかしてできることは?適職などはあるのでしょうか? -------- 細部にまできちんと目を配るHSPの能力は、あらゆる場面でいかされます。精度の高いものを目指すため、職人的、芸術的な仕事を任せれば、技術・品質ともに磨かれていくでしょう。特に、自分のペースで作業ができる環境であれば、その能力がいかんなく発揮されます。豊かな感性をいかし、クリエイティブな才能が開花する人が多いのもHSPの特徴です。世の中が必要とするものを敏感にキャッチするため、HSPが企画・開発に携わった商品が大ヒットしたというエピソードもあります。
組織の中でもHSPは重要な存在です。危機管理能力が高く、小さな異常にも直感が働く性質は、ときに「炭鉱のカナリア」にたとえられるほどで、企業のリスクヘッジに欠かせない存在です。人の痛みに寄り添い、身体的な感覚に敏感なので、ヨガインストラクターなど「心と体の調和」といった分野にも貢献できるでしょう。動植物に関わる仕事も共感力がいかされ、対人関係に疲れやすいHSPに向いているといえます。
また、人の心を癒やし、物事の本質を見抜く性質は、占い師のような「迷っている人を安心させる」といった力もあると感じます。HSPの敏感さは、さまざまな分野に力を発揮する優れた特性といえるのです。
Q:HSPが心穏やかに暮らすために大切なことは? -------- HSPが元気になれる要素として ・穏やかに自分のペースで過ごせる環境にある ・周りに自分を受け入れてくれる人がいる といった点が重要だと感じます。
「自分を知る」ことは、穏やかな環境をととのえる第一歩です。「私はどんなときに心が動揺するのか」「どのような人や場所、経験を心地よいと感じるか」を振り返ってみてください。例えば「なぜ、このカフェは居心地が良いのだろう」といったことで構いません。掘り下げていくうちに、マイナス要素を極力避け、エネルギーを得られる方法は必ず見つかります。わからないときは、プロのカウンセラーの力を借りるのも方法です。
そして、何より大切なのがセルフケアです。HSPは常にセンサーが働いているため、自分が思っている以上に、脳や体が休息を必要としています。敏感さを封じ込めようと、体の声を無意識にブロックする人もいますが、「これ以上無理をしてはいけない」という小さな体の変化は、本人が一番わかるはずなのです。
自分のペースを第一に考えることは、決してわがままではありません。繊細である自分を認め、「相手の期待に完璧に応えなくては」という基準をゆるめましょう。大きな問題が起こらなければOK、自分はこれでいいんだと肩の力を抜くくらいが、HSPにはちょうどいいのです。
HSPでない人にとって、少数派であるHSPのすべてを理解することは難しいかもしれません。ですが、HSPの鋭い直感力や細やかな優しさは、人々を危機から守り、彩り豊かな社会を築く上で欠かせないものと感じます。まずは「自分たちが気付かないうちにHSPに助けられている」ということに、目を向けてもらえたらと思います。そのことが、誰にとっても優しい社会をつくる、第一歩となるでしょう。
(佐々木 智城/臨床心理士)
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