「代理ミュンヒハウゼン症候群」で生後2カ月の長男に血液を含ませた母。減らない虐待の陰に潜む"インナーチャイルド"とは?

JIJICO / 2020年10月27日 17時30分

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「代理ミュンヒハウゼン症候群」で生後2カ月の長男に血液を含ませた母。減らない虐待の陰に潜む"インナーチャイルド"とは?

子どもの虐待に関するニュースが後を絶ちません。入院中の長男の口に、複数回にわたり血液を含ませた傷害行為の疑いで、23歳の母親が逮捕されるというショッキングな事件があり、その行為が「代理ミュンヒハウゼン症候群」ではないかという専門家の指摘がありました。

健康な子どもを故意に傷つけたり病気にさせたりしながら、その一方で献身的に面倒を見ることによって、周囲から関心を集めようとする行為は、一般の人にはなじみのない事例として多くのメディアに取り上げられました。こうした満たされない承認欲求による虐待は、実は誰の心にも在る「インナーチャイルド(心の中の子ども)」によるものと考えられています。

子ども時代の経験や記憶が、なぜ大人になってまで、その人の心理状態や行動に作用するのでしょうか。生きづらさを感じたとき、人はどのように内なる自分と向き合えばいいのでしょうか。心理カウンセラーの遠藤まなみさんに聞きました。

人との関わり方に悩む生きづらさは、傷ついた心のままのインナーチャイルドの存在。自分が受けた傷に寄り添いいたわることができるのは、大人になった今の自分だけ

Q:今回の事件で母親に対して疑われている「代理ミュンヒハウゼン症候群」とは、どのようなものですか? -------- 1970年代に、イギリスの小児科医メードゥによって提唱された虐待の特殊な形で、その名称は「ほら吹き男爵の冒険」のモデルとなった実在の人物の名前です。自身を傷つけたり、不調を訴えたりして精神的安定を図る「ミュンヒハウゼン症候群」に対し、子どもや親など、本来自分が保護するべき対象に向かうものが「代理ミュンヒハウゼン症候群」と呼ばれています。

未知の部分が多く、こうした症例に関わる医師や専門家も多くないので、国内外でも極端な事例として紹介されたり、実話に基づく映画やドラマで衝撃的に描かれることが多いようです。

ホラー映画「IT/イット 〝それ〟が見えたら、終わり。」(2017年アメリカ)では、母親が執拗なまでに息子に不要な治療を施す姿が描かれています。

配信ドラマ「The Act」(2019年 Huluオリジナル)では、2015年アメリカ南部で、実際は病気ではないのに、母親によって知的障害や難病があるように見せかけられていた娘が、彼女を献身的に支えるシングルマザーとして地元メディアに報道されていた母親を殺害した実話をドラマ化。いずれも、母親がわが子を意図的に傷つけながら、一方で献身的に治療する姿が異様な恐怖を与えるモチーフとなっています。

Q:自分が保護すべき対象への接し方に悩むというようなことは、実際にあるのでしょうか? -------- 社会や家庭生活で、自分が生きづらさを感じているという人のほかに、たとえば自分の子どもに対して、怒りの感情を抑えられない、軽い傷を負わせるような行為をしてしまう、ということは稀にありますが、自分で自覚していないことの方が多いかもしれません。

話題になった代理ミュンヒハウゼン症候群が疑われる事例でも、病院や医師が疑問を持つまで発覚しませんでしたし、そもそも病気やケガなど目に見える形に表れないこともあります。実際には、パートナーのどちらかが、その子どもに対する行為に違和感を持ち、仕方なくカウンセリングを促されたというようなケースが多いのです。このようなケースでは、本人がカウンセリングにもどこか他人事のようで、前向きではないことがあります。

夫婦関係に影響をきたすほど深刻なケースではなくても、自分の子どもを叱る時などに、つい自分の親から言われていた言葉と全く同じ言い回しをして「ハッとした」いうことはよくあるでしょう。知らず知らずのうちに、自分が親から受けた嫌な行為や言葉を、自分の子どもにもしてしまうのです。

Q:自分の子どもに対して問題のある行為をしてしまう人に見られる「インナーチャイルド(内なる子ども)」とは、どのようなものですか? -------- 「三つ子の魂百まで」とはよく言われますが、子どもの時の経験が、その人の人格の大部分を決定付けると言ってもよいでしょう。9~10歳ごろまでに、だいたいの考え方の傾向が固まってくると言われています。

100%完璧な親などいませんが、子育ての際の接し方に重大な問題があったり、親に何かの依存症があったりすると、子どもの心は何らかの「傷」を受けながら育つことになります。明確な虐待ではなくとも、たとえば「常に他の兄弟と比べる」「過度な期待を寄せる」「見えっ張り」「両親の不和」など家庭内に秘密がある、親の生活の乱れ、溺愛・偏愛…。そんな子どもは、程度の差はありますが自己肯定感が低く、自分に対して否定的な見方をしてしまう大人になってしまいます。

何か乗り越えるべき問題が起こった時にも、「どうせ自分にはできない」「別に乗り越えなくても良い」「ほどほどでいいだろう」などと思ってしまうのです。中には、人の見ている時だけはやっているように見せかけるということも。自尊心が低く、他人に迎合することは苦ではない場合もあります。

逆に、親の期待に応えようとがんばり過ぎたり、幼くして生活が乱れている親の世話を進んでするなど、むしろ優等生に見える行為でも、それが極端に年齢にそぐわない危険度の高い行動であるというケースもあります。

そして前述のように、ほとんどの場合、幼少期に自分が受けた傷を、自分の子どもにも与えてしまうのです。

Q:家庭の事情やとりまく環境は個人的なもので、その人が長年心の中に抱えている問題の本質を見極めるのは、非常に難しい作業のように思えるのですが。 -------- 心の問題に向き合うためには、必ず「幼少期の自分がどのような成育環境にあったのか」を客観的に知る必要があります。

一人一人が育ってきた環境も、その影響も単純なものではありませんが、生きづらさを抱える人の問題を客観的に知るために、カウンセリングの現場では事前に直感的な自己分析の方法として「エゴグラム診断」を行います。さらに、その人のインナーチャイルドがどのようなものかを9つのパターンに分類して探ります。

【インナーチャイルドの9つのパターン】 ① ロストラブ 愛情のない冷たい家庭に育てられた可能性がある(孤独感、空虚感、愛情への執着、愛情の距離感が理解できない)。

② ニゲーション 親から否定・差別・比較されて育てられた可能性がある(良い子を演じる、自分の欲求を抑制、感情を隠す)。

③ エクステクペーション 親からの過剰な期待を受けて育てられた可能性がある(強迫観念、禁欲的、自暴自棄)。

④ アビアランス 親が世間体を重視しブランド志向である環境で育てられた可能性がある(コンプレックスを感じやすい、見えっ張り、理想が高い)。

⑤ シークレット 外部に知られたくない秘密のある環境で成育された可能性がある(孤独、心を開きにくい、感情を表に出さない、人間嫌い)。

⑥ ディスライク 親から無条件の愛情を受けられず、否定され育てられた可能性がある(容姿コンプレックス、容姿に無頓着、存在否定、性別逆転傾向)。

⑦ ヘルパー 人助けをする習慣を身につけられて育てられた可能性がある(自己犠牲、過干渉、心配性、危ない人に惹かれる、承認欲求)。

⑧ インダルジ 甘やかされ守られ過ぎた環境で成育された可能性がある(自己中心、親との距離が極端に近い、他人の言動に過剰に反応)。

⑨ ディスペンデンスパーソン 依存的傾向がある親や育成者に育てられた可能性がある(逃避、集中力が低い、感情のコントロールが苦手、アルコール・ギャンブルなどの依存症になりやすい)。

Q:インナーチャイルドのパターンを知ることで、自分の子どもや周りの人と関係性を築くときの問題点が見えてくるのですか? -------- 前述のエゴグラム診断は、よく性格診断や適性検査などの時に使われます。たとえば「どんなこともきちんとしないと気が済まない」「人の短所よりも長所に目がいく」「情緒的というより、論理的な方だ」などの設問に直感的に答えていくというものです。

その結果、「冷静さ」「優しさ」「厳しさ」「自由奔放さ」「順応できる心」といった、人の性格を表すポイントのうち、何に重きを置くかの傾向を知ることができます。

冷静さが極端に低い人は「パニックに陥りやすい」とか、厳しさが極端に高い人は「完璧主義だが、つまずいたときには落ち込みが激しい」、優しさが極端に高い人は「他人に尽くすために自己犠牲に走りがち」といったことが見えてくるのです。

統計上のデータだけでは、心の奥深くに封印された、その人自身すら気付かない問題までが見えてくるわけではありません。あくまで可視化された自分の心の傾向を、その人自身が客観的に知ることが大切なのです。

Q:心の中の傷ついた自分をいやすために、どのようなことができますか? -------- 傷ついたインナーチャイルドは、その経験が過酷であるほど、それを直視することや言葉にして吐き出すことができません。何らかの嫌な経験や虐待をされたという認識があるとしても、具体的に「どうだったか」というようなことが、記憶からすっぽりと抜けていることが多いのです。

これを引き出す作業には多くの時間がかかりますし、新たな苦痛も伴うため、大きなエネルギーが必要で、到底簡単なことではありません。

それでもあえて記憶をさかのぼり、傷を受けた場面に戻って、その時の状況はどのようなものだったのか、親の言動は、何が原因でその時自分はどうしたのか…というようなことを、大人になった現在の自分がたどっていくのです。たとえばステージ上のその場面を、劇場の客席から見るように。

そして、その時の幼い自分に寄り添い、声をかけます。「つらかったね、悲しかったね。でも、そのとき、あなたを傷つけたお母さんの気持ちはどうだったんだろう?」 こうした作業を注意深く、十分な時間を掛けて行う先に、幼い自分と現在の自分をいやす道筋が見えてくるのです。

これは、一人ではとても難しい作業です。特に苦しい道のりには、私たちのようなカウンセラーの付き添いが必要な場合もあります。早い段階で誰かにその苦しい思いを話す、共感してもらうことができれば、破壊的な行動へエスカレートすることはありません。

ただ、「子どもに対して感情的になってしまう」という自覚があっても、なかなか相談ができないという人が多いのです。

歯が痛いと歯科を受診しますが、痛みがないとわざわざ病院へ行かなくなります。本当に痛くなってからでは、治癒するのに相当の時間がかかってしまいます。心も体と同じようにメンテナンスが必要です。

一つしかない自分の心は、誰からも粗末に扱われるべきものではありません。

(遠藤 まなみ/心理カウンセラー)

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