発達障害のある人に共通する行動とその対応方法について
JIJICO / 2021年6月7日 7時30分
発達障害のある人に共通する行動とその対応方法について
発達障害のある人は頑張り過ぎる?
ここ数年、「大人の発達障害」という言葉がよく聞かれるようになり、注目されるようになりました。それに呼応して、「大人の発達障害」について書かれた関連本や記事を目にする機会が増えています。発達障害のある人にはどのような環境を整えたら良いか、配慮の仕方や障害の特徴に適した職種は何か等、非常に参考になる情報が得られるようになりました。そんな中、まだあまり認知されていないと感じるのは、発達障害のある人は頑張り過ぎてしまう傾向があるという点。発達障害に関する知識を有している人には知られていることですが、広く一般的に知られているかと言えば、そうでもありません。そもそも、何を頑張っているかが理解されていないように見受けられます。このコラムでは、発達障害の特徴を踏まえつつ、頑張り過ぎる理由と弊害、周りの反応、そして対応方法について書きたいと思います。
※これから書くことは、全ての発達障害のある人に当てはまるわけではありません。感じ方や困り感は人によって異なりますことをお含みおきください。
頑張り過ぎる理由と弊害
「頑張る」とは一般的に努力することを指し、出来ないことを出来るように努める行為を意味します。 発達障害のある人も当然頑張りますが、頑張り過ぎたために体調不良を起こしたという話をよく耳にします。では、何故そんなに頑張り過ぎるのか?障害の特徴によるものと、幼い時からの経験というのが大きく起因しています。
・0か100の世界観 ・頑張らなければいけないという強い思い込み(こだわり) ・失敗体験や注意を受けた経験が多い ・周りから認められたという経験が少ない ・周りよりも自分は出来ないという劣等感
私が実際目の当たりにした頑張り過ぎる人は、これら全て又は複数該当していることが多いです。発達障害の一つである自閉症スペクトラム障害(ASD)のある人は、0か100の世界観を持ち合わせているため、適度に手を抜くというのが苦手。頑張る時は100%の力で頑張り、頑張らなければいけないという強い思い込み(こだわり)があると、体調が悪くても頑張り続けようとします。発達障害のある人は幼い時から失敗体験が多く、注意を受ける回数も定型発達の人と比べると多い。また、手先の不器用さやマルチタスクが苦手などもあり、周りの人達と自分を比べた時に劣等感を抱えやすいです。それ故、「普通でありたい」「叱られたくない」「失敗したくない」「認めてもらいたい」といった自己防衛反応や承認欲求が強く出るようになります。そのような状態で頑張って結果が伴うようになると、周りからの期待値も大きくなり、自分を追い込むことに拍車がかかります。長期間頑張り続けるとストレスが蓄積し、ある日突然爆発。鬱やパニック障害など心の不調が表面化します。それが学生の内なのか、社会人になってからかは人それぞれですが、心が不調になることで学校や会社に通えなくなることもあります。枯渇した心と身体のエネルギーが再び溜まるのに時間がかかります。その間、頑張れなくなった自分を情けなく感じたり、無力感に苛まれたりして、自己肯定感や自尊心が低下していきます。頑張り過ぎることによる弊害は、決して心の不調だけではないのです。
頑張り過ぎている時の周りの反応
発達障害のある人が頑張り過ぎつつも結果が伴っている時、周りはどんな反応をしているでしょうか?仕事柄、学生と関わることが多いので、学生時代を例として挙げます。結果が伴っていると、学校の先生は「成功体験になっている」「本人も喜んでいる」「しんどそうだが、みんなそういうものだ」と捉え、子供が頑張り過ぎているとは気が付きにくいです。むしろ、「たくさん資格を取得すると就職に有利だから頑張ろう!」「君なら上の大学にいけるから頑張ろう」と言って、より頑張らせようとします。学校というのは成長の場でもあります。先生が言っていることは決して間違いではなく、子供もそんな周囲の期待に応えようとするので、結果的に自分で自分の首を絞めることに繋がります。親は子供の心身に余裕がないというのに薄々気づいていて、子供を止めるべきか止めない方がいいのか、葛藤していることが多いです。葛藤しつつも、過去の我が子の様子と比較し、頑張り過ぎているかもしれないが結果が伴っていて、学ぶモチベーションにも繋がっている。だから止めない方が良いという結論に至ることもよくあります。 先生も親の気持ちも十分理解できます。しかし、発達障害のある人は疲れやすいというのを忘れないで欲しいです。
頑張り過ぎる人への対応方法
発達障害のある人達は、頑張っている事柄(例:仕事や学習)以外に、何を頑張っているのかを知ることが対応の第一歩です。
・周りの環境に合わせようと(空気を読もうと)常に神経を使っている ・刺激(例:大きな音)に対して我慢している ・周りが出来て当たり前のこと(例:お茶くみ)を頑張っている ・失敗を引きずりやすく、失敗に対する恐怖と向き合い続けている ・何気ない会話でも気を遣い過ぎている
「そんなことは皆そうだ!」という声を聞くこともありますが、定型発達の人と大きく違うのは、要所要所で頑張っているのではなく、常に頑張り続けているという点。それこそ、休憩時間でさえも頑張っている人もいます。例として挙げたお茶くみのようなことは、経験していけばきっと出来るでしょう。しかし、障害特徴故に何度経験しても慣れず、心が疲れる人もいます。『出来るけど疲れる』という隠れた疲労が存在するのです。なまじ出来るだけに断りづらく、周りの人達も問題なく出来ていると見るので、頑張らざるを得ません。人知れず、確実にストレスとして蓄積していくのでやっかいです。頑張り過ぎる人に「少しは力を抜けよ」と言って効果があるかと言えば、効果はそれほどないと思われます。何故なら、他の人よりも頑張らないと認めてもらえないという思考になっていて、力を抜くとまた認めてもらえなくなるという不安に苛まれます。また、0か100の世界観を持っている人は力の抜き加減が分からなくて、逆に困るという話も聞きます。対応方法として最も効果があるのは、その人にあった環境を周りの人達が整えること。下記は一例です。
学校と塾の宿題に日々追われている→学校の宿題を中心にして塾の宿題を減らしてもらう 学校で様々な資格の勉強をやらされている→取得する資格を厳選する 広く浅く色々な仕事をする→得意な仕事に集中してもらう
当事者が自ら要望するというのは難しいものがあるので、身近で影響力のある人が積極的に動くのが望ましいです。学校や塾関連なら親が代弁する。会社では上司が当事者と話し合いをする時間を設け、要望と特徴を理解した上で環境(人的環境含む)を整えるのが理想です。
対応事例
以前、指導していた自閉症スペクトラム障害(ASD)のある生徒(高校生)の話。生徒が所属していたコースは長時間勉強漬けのコースで、尋常ではない量の勉強に日々追われていました。大変でしたが、頑張り屋でもある生徒の成績は学年トップ5に入るほど。生徒は結果が出ていたのでモチベーションは保てていましたが、目の下に大きなクマができ、明らかに身体を重そうにしていました。ある日、私は生徒に最近の生活の様子を訊くと「毎日授業が長すぎるし、家に帰っても勉強ばっかりでしんどいわ」とボソっと言いました。普段は明るい性格の生徒ですが、そんな彼が放った言葉とは思えないほどのトーンでした。心が限界に近付いているという『心のSOS』と捉えた私は、その旨を親に伝えました。親自身も思うところがあったようで、親はすぐに動きました。塾の宿題量を減らす交渉を塾側とし、生徒は少し楽になりましたが、大きな変化はありませんでした。そこで、学年が上がるタイミングに思い切って学校のコースを変更しました。環境が大きく変わったことで、生徒は劇的に良い方向に向かい始めました。目の下の大きなクマは消え、心にゆとりを持てるようになったことで表情が随分明るくなりました。現在は無理のないレベルの大学に通っており、精力的にバイトや勉学に励んでいます。
発達障害のある人は日々頑張っています。応援は励みになり、心の支えにもなりえますが、もし頑張り過ぎていると感じたならば、頑張り過ぎないで済むような環境を整えてください。その行動が我が子の心を守ることに繋がります。一人で難しければ発達障害の専門家に相談をしてください。きっと良いアイデアを頂けると思います。
(安藤 和行/ひだち教室長)
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