不正競争防止法の改正その2(後編)
JIJICO / 2023年7月28日 12時30分
不正競争防止法の改正その2(後編)
令和5年6月7日、「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が可決・成立し、6月14日に法律第51号として公布されました。このうち、ごく一部については、令和5年7月3日から施行されています。知的財産の分野におけるデジタル化や国際化の更なる進展などの環境変化を踏まえ、主に以下の内容が含まれます。
① デジタル空間における模倣行為の防止 ② 営業秘密・限定提供データの保護の強化 ③ 外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充 ④ 国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化
本コラムでは、上記②、③及び④について、説明します。なお、本改正は多岐にわたるものであり、以下で紹介するのはその一部です。
「②営業秘密・限定提供データの保護の強化」
1 改正内容 不正競争防止法について、ビッグデータを他者に共有するサービスにおいて、データを秘密管理している場合も含め限定提供データとして保護し(つまり、保護対象を拡げた)、侵害行為の差止め請求等を可能とします。また、損害賠償請求訴訟で被侵害者の生産能力等を超える損害分も使用許諾料相当額として増額請求を可能とするなど、営業秘密等の保護を強化しました。
2 どう影響があるか。 この改正の関係で、法人に限らず、個人も特に注意すべきと思われるのは「使用等」の推定規定の対象者拡充です。今までは、㋐営業秘密へのアクセス権限がない者(例えば産業スパイ等)が営業秘密を取得したときや、㋑不正に取得した者から、その不正な経緯を知った上で転得した者が営業秘密を取得し、かつ、㋐または㋑の者がその営業秘密を使用すれば生産できる製品を生産した場合、その者がその営業秘密を「使用」したことが法律上推定されました。今回は、これらに加えて、㋒元々、営業秘密にアクセス権限のある者(元従業員や業務委託先等)が許可なく複製等し、または㋓不正な経緯を知らずに転得したが、その経緯を事後的に知った者が、その営業秘密を使用すれば生産できる製品を生産した場合にも、その者がその営業秘密を「使用」したことと法律上推定されることとなりました。
上記のうち、意外と怖いのが㋓です。警告書などを受け取った後も「最初は知らなかったのだから大丈夫」と高を括って、違法品を作り続けた場合、高額な損害賠償や、刑事罰を受ける可能性もあります。また、㋒についても、個人レベルで、仮に転職する場合は、自ら元の会社のアクセス権限を無くすように申し入れるなどの措置をとっておいた方が、無用な疑いをかけられることもなくなり、無難かと思われます。
「③ 外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充」
1 外国公務員贈賄に対する罰則とは何か。 不正競争防止法では、何人も、外国公務員等に対して、国際的な商取引に関して、営業上の不正の利益を得るために、贈賄等をすることを禁止しています。たとえば、これまで、以下のような事案で、刑事罰が執行されました。 東京都に本店を置く鉄道コンサルタント事業等を営む株式会社の元社長ら3名が、いずれも被告会社が有利な取り計らいを受けたいとの趣旨の下、対ベトナム円借款「ハノイ市都市鉄道1号線建設事業」に関し、ベトナム鉄道公社関係者に約7000万円の日本円を、また、対インドネシア円借款「ジャワ南線複線化事業」に関し、インドネシア運輸省鉄道総局関係者に合計約2000万円相当の金銭(日本円及びルピア)を、ウズベキスタン円借款「カルシ・テルメズ鉄道電化事業」に関し、ウズベキスタン鉄道公社関係者に約5477万円相当の金銭(米国ドル)をそれぞれ供与した(東京地裁平成27年判決)。 タイ王国で火力発電所の建設工事を請け負っていた日本企業の元執行役員等の3名が、タイ王国の公務員に対し、許可条件違反を黙認し、仮桟橋への接岸及び貨物の陸揚げを禁じないなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの意図の下に、約3,993万円相当の現金(タイバーツ)を供与した(東京地裁平成31年判決)。
2 今回の改正内容 今回の改正では、個人・法人の罰金上限額が引き上げられ、さらに、日本法人が海外で雇用している外国人従業員の行為も対象になりました。上記のタイの事案の「元執行役員等の3名」が、日本人でなく外国人であっても、処罰されるということですし、さらに、雇用していた日本企業も処罰の対象になります。
「④ 国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化」
今まで、日本国内で事業を行う企業Ⅹが日本国内で管理体制を敷いて管理している営業秘密を、Ⅹ社の従業員が海外の別企業Yに持ち出して、Yが不正取得を知ったうえで取得・使用しても、企業Xが、企業Yに対して、日本の裁判所・日本の法律で民事裁判ができるかどうか、不明確でした。今回の改正では、企業Xが、こうした企業Yや、元X社の従業員に対して、日本の裁判所・日本の法律で民事裁判ができる旨を明示しました。
そのほか、商標法の改正に伴う調整など、今回の改正は多岐にわたっています。経済産業省のwebサイトでも詳しく説明されていますので、そちらも参考ください。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/kaisei_recent.html
(得重 貴史/弁護士)
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