「夫婦別姓」はなぜ選べない?結婚で姓が変わり苦しむ人たちの実情

女子SPA! / 2019年3月7日 8時46分

写真はイメージです(以下同じ)

 近年、議論が続くもいまだに法改正が実現していない「選択的夫婦別姓」 問題。そんななか、地方議会に法改正を求める陳情・請願(*1)を提出することで国会での議論を促し、少しでも早く「夫婦同姓も夫婦別姓も選べる社会」を実現しようとする動きが広まっていることをご存知ですか?

 この活動を呼びかけているのは、有志でつくられた「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」。現在、北海道から沖縄まで約70人のメンバーが集まっているそうです。

◆法律で夫婦同姓マストの国は、世界で日本だけ

 事務局長の井田奈穂さんはこう話します。

「あらゆる国が男女同権の考えに基づき法改正をしたいま、夫婦同姓を法律で義務付けている国は世界中で日本だけ。国連からも再三、改善勧告を受けています。昨年2月公表の世論調査では、選択的夫婦別姓に賛成の国民が反対の国民を大幅に上回りました。また、未婚男性31%、未婚女性の27%が『結婚するなら別姓にしたい』と答えた調査も(*2)。ここまでニーズがあるものを反映しないのは、大いに疑問です」

「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」のメンバーは30~50代女性がメインでしたが、最近は男性も増えてきたそう。昨年、サイボウズ株式会社の代表取締役・青野慶久氏が選択的夫婦別姓を求めて国を提訴したことが話題になりましたが、男女ともにさまざまな改姓の不利益に悩まされているのが現状のようです。

 では、改姓によって具体的にどんな不利益が生じることがあるのでしょうか。一例として井田さんのケースをうかがいました。

◆自分の姓で結婚を望んでも、“家”がそれを許さない

●井田奈穂さん(43歳・会社員)

 結婚→離婚→再婚を経験している井田さん。初婚で改姓し、離婚後も元夫姓を名乗り再婚で現夫の姓に改姓したため、戸籍上これまでに2度、改姓していることになります。

「初婚時、私は自分の姓で結婚したいと望みましたが、元夫からは『妻の名前になるなんて恥ずかしい』と一蹴され、両家の両親からは『結婚は家と家との結びつき』などと強く説得されたため、我慢して改姓。自分ではない名前で呼ばれ続ける苦痛を初めて味わい、自己同一性を失ったと感じました。

 初婚の19年間、義両親は家制度が存続しているかのように私を“本家長男の嫁”として扱いました。たとえば義父が亡くなった際は、告別式後に夫が仕事に戻ったにもかかわらず、私は『嫁だから』と仕事を休んで義父の初七日、納骨まで担うことを強いられたのです。改姓していなければ、“○○家の嫁”という意識がこれほど生じなかったのでは?」

 それでも、「婚氏続称(*3)」の手続きをして離婚後も元夫の姓を名乗り続けたのは、仕事において元夫姓で実績を積んでいたから。さらに、2人の子どもが「自分の名前を変えたくない」と望んだことも、大きな理由だといいます。

◆2度目の改姓後、事態はさらに複雑化して……

「なので、もう改姓はしたくなかったのですが、交際していた現夫が手術を受けることになったときに、配偶者ではないので入院・手術の手続きなどにサインができず、『闘病を支えるなら、法的な家族でなければ難しいんだ』と実感。再婚を決意しました。

 現夫に元夫の姓を名乗らせるわけにもいかないので、やむなく私が2度目の改姓をしたんです。子どもたちは再婚に賛成してくれたものの、やはり姓を変えないことを望んだため、筆頭者である私だけが戸籍を抜け、子どもたちだけの戸籍を残すことになりました」

 親子別姓に法的な不利益はいっさいなく、生活にも不都合はないそうですが、改姓による面倒な手続きなどはいまなお続いているそうで……。

「たとえば、再婚まで公共料金から資産運用、保険などあらゆる名義を旧姓で管理していたのが、パスポートを新姓に変えたことから芋づる式に名義変更を余儀なくされてしまって。パスポートと同一名義でないと海外で支障が生じるクレジットカード、カードを変えたら銀行口座も、それに紐づく公共料金も……と。走り回って出費を強いられ、再び“自己同一性を失う”苦痛を実感しました」

◆仕事での通称と戸籍姓の使い分けで、心苦しい思いも

 仕事上は元夫姓を名乗り続けているそうですが、ここでもさまざまな問題が。

「通称には法的根拠がなく、本人確認が必要な場面では、いわば“偽名扱い”になってしまいます。そこで名義変更をすると今度は『銀行口座に給与が振り込めなくなった』『お子さんが改姓しなくても社会保険の扶養者が改姓すればすべて変えなければならない』『海外出張のチケットはどの姓で取れば……?』など、経理・総務・人事にまで戸籍姓と通称の煩雑な使い分けを強いるはめに。たいへん心苦しい思いをしています」

 さらに、仕事上のSNSアカウント、メールアドレスも新姓に変えると混乱が生じるのは必至。実績やSEO効果、連絡先などを引き継げなくなるため、井田さんはいまも元夫姓を通称で使っているのですが、そのことを現夫の親族に『夫がかわいそう』ととがめられ、大きなストレスを感じているとか。

「結婚しても改姓しない側は、こんな苦労をしなくて済みます。私はなぜ、“自分が自分であること”を奪われ、それを仕方がないことと我慢しなければならなかったのでしょうか。場面によって名乗る姓を変える使い分けにも疲れました」

 もちろん改姓で何ら不自由を感じない人もいる一方で、このように困っている人々も大勢います。数々のデメリットが生じる場合でも、有無を言わさず結婚=改姓を強制されるのは、生きにくい社会といえるのではないでしょうか。

 次回も、夫婦別姓を選択できずに苦労を強いられている女性の事例を紹介します。

<取材・文/持丸千乃>

*1 陳情、請願:行政などについての意見や要望があるときは、誰でも請願書や陳情書を市区町村会に提出することができる。請願書を提出するときは1人以上の市区町村議会議員の紹介が必要で、陳情書の場合は必要ない
*2 ワタベウェディング株式会社「結婚と苗字に関するアンケート調査」(2018年9月19日)より
*3 婚氏続称:離婚の被から3か月以内に戸籍係へ届け出ることによって、離婚の際に称していた氏(婚姻中の氏)を称することができる(民法767条2項)

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