モラハラのエリート夫がうつ病に…。立ち直った彼が妻に伝えたこと

女子SPA! / 2019年7月12日 15時47分

 何らかの事情で一度関係の壊れかけた夫婦でも、思わぬきっかけで再生することがあります。男女関係や不倫事情を長年取材し著書多数のライター・亀山早苗さんが、夫婦の“再生物語”をレポートします。(以下、亀山さんの寄稿)

 離婚寸前までいきながら、人間としてお互いを大切に思うことができるようになった夫婦がいる。夫がどん底に落ちたとき、初めて相手の存在の大きさに気づいたと、マイさん(46歳)は言う。

◆彼との結婚がいい逃げ道だった

 マイさんが夫のケンスケさん(49歳)と知り合ったのは学生時代。ずっとグループでの友人関係が続いていたが、当時は恋愛感情はまったく抱いていなかった。

「卒業後も彼は有名企業へ、私はベンチャーへとまったく違う道へ進みました。彼は優等生だったんですよ」

 卒業して5年たったころ再会、彼はエリートサラリーマンとしてバリバリ働いていた。一方のマイさんは就職して3年で疲弊して転職、自分の道が見えないままだった。

「そのときは彼とふたりきりで話す時間がたっぷりあって、やたら前向きな彼に影響されてもうちょっとがんばってみようと思えた。それをきっかけにつきあうことになったんです」

 つきあって2年、彼からプロポーズされた。自分に仕事は向いていない、向く仕事が見つけられないと悶々(もんもん)としていたマイさんにとって、それはある意味で人生を変える転機でもあった。

「結婚して少しゆっくりして、そこからまた自分の人生を見つければいいよと彼が言ってくれたんです。ありがたかった。

 今思えば結婚に逃げたんですが、彼はエリートだし経済的にもラクになる。それは魅力でした。当時はリーダーシップがあってやさしい人だと思っていたし」

 ところが結婚してみると、彼のリーダーシップは押しつけに形を変えた。働いていないなら家事は完璧にやってねと圧力をかけられ、子どもができると母としてそれはどうかなと疑問を呈された。自分のやっていることすべてがダメだと言われているような気がしたという。

「妻としても母としても落第だと自分でも認めるしかなかった。それでもふたりの子どもとの生活は楽しかった。夫はものすごく居丈高(いたけだか)というわけでもないんですが、何かというとプレッシャーをかけてくるタイプ。気にしないようにしながら、でもなるべく夫の機嫌を損ねないように我慢しながら暮らしていました」

 耐えられないほどではない、だが常に夫からのプレッシャーにさらされる日々。中途半端なストレスともやもや感があったという。

◆ある日、夫がどん底に……

 結婚して10年でマイホームを取得、子どもたちにも何不自由ない生活を送らせることができたのは夫のおかげだとマイさんは言う。

「これが幸せだと思うようにしていたけど、私は何のためにここにいるのだろうと思うこともありました。

 私は夫の収入も知らなかった。毎月夫から渡される生活費の中で食費と雑費をやりくりするだけで、あとはすべて夫が管理していたんです。長女がバレエを習いたいと言うと、夫が一緒に教室へ行って習うかどうか決めてくる。習うことになったら送迎は私なんですが、私には何の決定権もないし夫からの相談もない。

 私のことをまったく信用していないんだろうなと思うと、ますます自分がダメ母で無力だと感じるんですよね」

 子どもたちが成人したら、自分の存在すら認めてくれない夫とは別れたい。本気でそう思うようになっていった。

 ところが3年前、結婚して15年がたったとき、夫が突然会社へ行けなくなった。その前から派閥争いに巻き込まれていたらしく、夫の上司が失脚、それと同時に夫も閑職へと追いやられたのだ。夫は我慢して会社へ行っていたが、とうとう気力が切れた。

「私は何も聞かされていなかったから、具合が悪いなら病院へ行ったほうがいいと言ったんですが、夫はずっと家の中でぼうっとしているだけ。どうしたらいいかわかりませんでした」

 夫が会社を休んで4日目、夫の部下から連絡があり、ようやく何が起きたのかがわかった。そのとき彼女の心には複雑な思いが去来したという。

「いっそこのまま夫を見捨ててしまいたいと思う半面、あんなに仕事が好きで輝いていた夫を取り戻させたいとも思いました。いろいろ考えたけど長年、一緒に暮らしてきた情は多少はある。まずは健康になってもらおうと決めたんです」

 彼女はその部下に会って詳しく話を聴いた。どうやら会社の医務室にも通っていたらしいので医師にも会い、ある精神科医を紹介してもらった。そして家から出たがらない夫をなだめすかしながら病院へ連れていった。

「うつ病と診断されました。夫は非常に悲観的になっていて。40代半ばになって彼は人生で初めて挫折を味わったようです。ずっと光り輝く道を疾走してきたような人だったから」

◆回復してきたときに自殺未遂を

 1ヶ月ほど入院、その後は自宅療養となったが、彼のネガティブな気持ちはなかなか変えることができなかった。

「私は見守ることしかできませんでした。子どもたちにも正直に話して、とにかくおとうさんをみんなで見守ろうと。

 うつの回復期には自殺未遂をする人も多いと聞いていたから、子どもたちにもそのことは話しておきました。というのも私が近所のコンビニで働くようになっていたので、子どもたちに夫を見てもらわないといけない時間もあったんです」

 夫はゆっくりと回復していった。1年ほどたつうちには「この期間をいい休みだったと言えるようになるかな」とまで言うようになっていた。

「それでふと安心したんですよね、私も。そうしたらその直後に薬を大量に飲んでしまった。救急搬送してまた入院。あのころは私の精神もぼろぼろでした」

◆夫はレールから転がり落ちた自分を認めるように

 だがマイさんは夫を見放さなかった。見放すのは今ではない。そのかわり治ったら離婚してやると日々考えていたという。

「ときどき私に暴言を吐いたりもしていましたからね。病気がそうさせるのだとわかっていても、やはりつらいですよ。『おまえと結婚したから、オレはこんな状態になってしまった』なんて言われていましたから」

 それでも気分のいい日は、一緒に散歩をし、「子どもたちがいい子に育ったのはマイのおかげだよ」と言うこともあった。

 療養して1年半、ようやく夫が安定してきた。夫自身が自分の気分をコントロールできるようになってきたと実感したのだという。

「結局、夫は自分の弱さを認識したくなかったんでしょうね。こんなはずじゃないという気持ちと戦い続けていたんだと思う。いつでもどこでも先頭を走っていた自分が、完全にレールからはずれて転がり落ちたことを認められなかったんでしょう」

 夫はようやく自分と向き合うことができるようになったのだ。

「会社側の体制も変化があったようで、夫は無事に職場復帰できました。関連会社でのそこそこのポストで、夫は復帰初日から明るい顔で帰宅しました」

 これで私の役目も終わった。マイさんはそう感じたという。あとは夫とつかず離れずの関係を続け、子どもたちが成人になるのを待つばかりだった。

◆地獄を見たことで価値観を変えた夫

「仕事復帰した最初の週末、家族で夫の快気祝いをしたんですよ。少し盛り上げないといけないと私も子どもたちも思っていたから。

 そのあと、夫婦だけになった寝室で、夫がしみじみと『マイに苦労させた。ごめんな』と涙をこぼしたんです。驚きました。誰よりもマイが頼りになった、今までのイヤな思いをたくさんさせてきたと思うって。

 そしてこれからは何でも相談したい、これはマイに任せると銀行の通帳などを出してきたんです」

 夫は療養中、自分がマイさんに完璧な妻や母を求めてプレッシャーをかけたことや、マイさんを信頼せずにすべて自分が仕切っていたことなどについても考えを巡らせていたそうだ。

「結局、そういう傲慢な態度が自分の人生を作ってきたんだと思ったようです。彼が閑職に追いやられたのは派閥争いだけど、その後、彼のことを心から心配してくれた人はいなかった。それは夫に人望がなかったからでしょうね。

 夫は自分にとって、何が大切かを勘違いしていたと話してくれました」

 その最たるものがマイなんだ、と夫は言った。いちばん大事な人をいちばん苦しめてきた、と。

「夫は地獄を見たことで価値観を変えたんでしょうね。変えたのか変わったのかわからないけど。

『今後の人生、マイと一緒に歩いていきたい』と言ってくれたんです。結婚してから、初めて夫の愛情ある言葉を聞いたような気がしました」

 気持ちが寄り添った瞬間だった。それ以来、夫は肩の力が抜けたように家族に素顔をさらすようになった。

「偉そうなことはまったく言わなくなりました。子どもたちの進路についても親身になって相談に乗っているけど、いい大学へ行けとも言わないし、とにかく好きなことを見つけろって。

 先日は初めて会社の仕事仲間を家に連れてきました。見ていたら、部下たちが夫を信頼しているのがわかる。それはとてもうれしかったですね」

 夫は実母からの強烈なプレッシャーのもとで優等生にならざるを得なかった。そんな過去についてもマイさんは最近、初めて聞いたのだという。

「この3年、結婚してから初めて夫婦の気持ちが穏やかになっているのを感じます。夫が天国から地獄へ落ちたことで、夫婦関係を築くことができたような気がしますね」

―夫婦再生物語 ―

<文/亀山早苗>

【亀山早苗】

フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数

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