米津玄師作の「パプリカ」で子供たちが踊りまくる、大ヒットの理由

女子SPA! / 2019年8月7日 8時45分

「ロッキング・オン・ジャパン 2019年 07 月号」 ロッキングオン

 いま、小さな子供たちが夢中になっている曲があるんだそうです。それが、小3から中1の男女5人組ユニット「Foorin(フーリン)」が歌う「パプリカ」。

 作詞と作曲を米津玄師(28)が手がけ、“2020年とその先の未来に向かって頑張っている全ての人を応援する”という「2020応援ソングプロジェクト」として制作されました。ところが、当初の目的を超えて、いま社会現象になりつつあるというのです。

 ネットでも、驚きの目撃証言が続出。この曲が流れると、「10ヵ月の息子が泣き止む」とか、「スーパーで知らないこども同士の合唱になった」とか、「1歳児から4歳児が踊りまくってた」など、「パプリカ」旋風はとどまるところを知りません。

 当然、これまでにもみんなが口ずさめる曲や、振付けが大流行する曲はありました。しかし、話を聞いていると、「パプリカ」はその両方を満たしているようなのです。一体、どこが魅力なのでしょうか?

◆わらべ歌的な歌心がある点が、米津玄師の強味

 まず、歌やサウンドの面から見ていきましょう。この曲が発売された当時、音楽プロデューサーの近田春夫氏(68)は、こう論じていました。

<展開が案外複雑というか、たとえば転調をしてみせたり、旋律もことのほか要素が多く、俗にいう“凝った作り”である。パッと聴いて子供がすぐに口ずさめるような歌では、必ずしもなかったのである。>(週刊文春2018年9月6日号『近田春夫の考えるヒット』 NHK2020応援ソング『パプリカ』は案外凝ってる より)

 確かに、メロディの一節ごとに、予想を裏切る収束の仕方をしていくのが特徴的です。たとえば、曲のタイトルでもある「パプリカ」という単語ひとつとっても、素直に言わせない仕掛けがある。“ぱぷりぃぃ~か”と、こぶしをつけなければ歌えないことで、良い意味でヘンな造語のように響くのですね。

 ここで、皆さんの子供時代を思い出してみてください。ごくつまらない言葉のアクセントを変えたり、文字の順番を入れ替えたりして遊んだことはないでしょうか。米津玄師のいたずら心は、そんな無邪気さをインスパイアしたように思います。

 こうした節回しの妙に加えて、転調やカラフルなサウンドが、曲をにぎやかに盛り立てている。多動的な子供たちを飽きさせないアトラクションが満載だといえばよいでしょうか。

 しかし、それでも根っこにわらべ歌的な歌心がある点が、米津玄師の強味なのですね。やはり、その歌をうたいたくなるためには、物珍しさだけではダメで、筋の通った情緒が欠かせないからです。

 大して好きでもないのに、気づけば鼻歌でうたってしまう曲。理屈を超えた浸透力も、「パプリカ」の魔力なのかもしれませんね。

◆ラジオ体操みたいにダンスが苦手でも踊れる

 次に、みんな踊ってしまうという点を考えてみましょう。一般にダンス音楽というと、三浦大知(31)あたりの名前が浮かんできますよね。ただ、彼の曲に合わせて踊れる子は、もともとダンスが得意だったり、運動神経がよかったりと、限られてくるはず。

 そこで「パプリカ」を聴くと、かなりゆったりとしたテンポだと気づきます。でも、このスローなスピードだからこそ、多くの子供たちが引け目なく参加できるのではないでしょうか。スポーツにも言えることですが、いきなりガチガチの実力主義に圧倒されて、その種目の楽しさを知る前に挫折してしまうなんて話をよく聞きます。ムダに高いハードル設定によって、本来広げるべき門戸が狭まっているのですね。

「パプリカ」のダンスは、この問題を見事にクリアしています。スピードをゆるめつつも、ほんの少しだけシャッフル(跳ねた)のリズムで味付けすることで、踊りが苦手な子でも、もっさりせず、スタイリッシュにキマる。いまの子供たちにとっては、ラジオ体操みたいな存在になりつつあるのではないでしょうか。

◆米津玄師セルフカバーは和テイストで盆踊りの血が騒ぎだす

 さて、それらをふまえたうえで、NHK「みんなのうた」で8、9月放送されている米津玄師バージョンの「パプリカ」を聴くと、さらに興味深い視点が浮かんできました。

 オリジナルに比べて和テイストなアレンジによって、和音の間を自由に行き来する歌メロに、小唄のようなしなやかさがあることに気づきました。その歌を支えるリズムにも、“えんやとっと”的な、盆踊りの血が騒ぎだす、摺(す)り足の快感が刻まれていました。

 ただ流行っているから、子供たちがハマるわけではない。非常に説得力のある、作者ならではのセルフカバーだと、感心してしまいました。

 というわけで、来年にかけて耳にする機会の増えそうな「パプリカ」。夏休みに入り、子供たちの踊りにもますます磨きがかかるのでしょうね。

<文/音楽批評・石黒隆之>

【石黒隆之】

音楽批評。ipodに入ってる曲は長調ばかりの偏食家

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